倶樂部余話【397】ビートルズとアランセーター(2021年11月4日)


中学の頃、つまり1970-73年頃の話。生徒会活動に明け暮れていた私の週末は、天気が良ければ鎌倉の史跡をしらみつぶしに回り、雨が降ると映画館に入り浸る、というのが常でした。
江ノ電の古い駅舎の近くの映画館「フジサワ中央」はいつも洋画の3本立てで、その組み合わせは、例えば「ある愛の詩」に「栄光のル・マン」とか、「小さな恋のメロディ」に「トラトラトラ」とか脈絡がなく、そして3本目に幾度となくかかっていたのが「Let It Be」と「Elvis on stage」でした。だからこの2つの音楽映画は何度も観ることになったわけです。入れ替えなしの館ですから一日に二度観ることもできました。

当時の私は吉田拓郎に憧れてギターを始め同級生と一緒にフォークソングを歌っていたところで、洋楽のことはエルトン・ジョンとジョン・レノンの区別もつかないほどにまるで無知でした。なので私にとって最初のビートルズは、アルバムLPではなくてこの映画「Let It Be」であったのです。多くのビートルマニアが自分にとっての最初のビートルズを記憶しているでしょうが、私のようなケースは稀なんじゃないかと思います。このフィルム、解散寸前のメンバーの不仲な様子が伺える暗い記録としてビデオ化もされず映画としての評価はよろしくないのですが、私にとっては、メンバーが子供みたいにはしゃいだり、つまらないことで喧嘩になったり、全然合わないミスばかりのリハーサルを何度も繰り返したり、と、「なんだ、ビートルズも俺達とそんなに変わんないじゃん」とものすごく身近に感じられたのでした。いやはや今思うとなんとも不遜な感想ではありますが。

つまり私は幸運にもビートルズ現役時代の最後の最後のけつッペタにかろうじて間に合ったわけでして、そこから遡るように聴き込むようになります。挙げ句、中3の文化祭のステージ、生徒会長として開会宣言をした直後にエレキを持って♪Don’t Let Me Down♪を絶叫する私がいたのでした。

そんな私にとって特別なこの映画ですが、当時残された膨大な撮影フィルムが新たに編集されて、この度6時間にも及ぶ全く新しいプログラムが「Get Back」としてまもなく世界同時公開されることになりました。今月下旬の3日間にかけて2時間ずつ配信されるらしいのですが、もう楽しみで楽しみで多分その3日間は仕事にならないんじゃないか、と今から申し上げておきます。

で、今月の楽しみといえば、はい、前回当話でお知らせした、モーリンのアランセーターの復刻品がいよいよ11/15に発売です。それに関連して先日あるメンズファッション雑誌から一日かけての取材を受けました。業界紙も購読をやめてファッション雑誌もほとんど買わない、向かいの本屋さんが閉店してからは立ち読みすらめったにしない、という私が、そんな何ページも雑誌に載っていいのか、と思いますが、2011年と2012年に続けて大きく誌面に登場して以来、約10年ぶりの雑誌掲載です。毎回おんなじアランセーターの話ですが、10年経つと読者が一巡してとても新鮮に映るようです。どういう感じで出るのかはまだわかりませんが、11/15に書店でお確かめください。(弥)

写真は、先日の取材の風景と、過去(2011年と2012年)の特集記事。過去の記事の反響はとても大きいものでした。