倶樂部余話【411】マザーグースのおはなし(2023年1月1日)


 謹賀新年。本年もよろしくお付き合いください。

 四百話も続けていると、この話は前に書いたことあったかなぁ、と心配になることがあります。暮れに娘婿とテレビショッピングを何気なく見ていたときにもそう思って、
過去の話を検索してみたら、意外にもこの話はしてなかったんです。グースとダックの違い。はい、ダウンの話です。

 ダウン(羽毛)にはグースとダックがあります。
グースgoose(複数形はgeese)はガチョウで雁(ガン)の仲間、主にユーラシア大陸の寒冷地に生息し、肉も食用に供されますが、よく知られるのは肝臓つまりフォアグラです。ダウンボールは大きく、特に成鳥のマザーグースになるとそのダウンボールは25mmを超えるものもあります。
対して、ダックduckはアヒルで鴨(カモ)の仲間、アジアの温帯域で飼育されます。卵はピータンですけれど、アヒルの肉なんて北京ダックぐらいしか食べたことない?、いえいえアヒルの肉は鴨肉と表示されるんです。鴨南蛮そばの鴨ですね。ダックはグースよりも体が小さいので、ダウンボールもグースより小さく、その分空気を含む能力も小さくなります。そもそも寒冷地に住むグースと温帯域に育つダック、どっちが寒さに強いかは自明です。決定的なのは、グースはほとんど無臭なのに対し、ダックは匂いがあり、濡れると特に強く出ます。当然、両者には大きな価格差があります。

 ほとんどの羽毛製品にはダウン(羽毛)とフェザー(羽根)の混率表示はありますが、そもそものダウンがグースかダックかの明記はまずありません。グースダウンを明記することはあっても、うちはダックダウンです、なんていう不利を自分から告白するところはありませんから、つまり、うちはグースです、と言わない限りは、そのダウンはダックだと思っててほぼ間違いないわけです。テレビショッピングの画面の中では、かさ高の比較実験やフィルパワーの測定なんかを真剣にやってますが、そもそもそのダウンがグースなのかダックなのかははっきりしません。非難を恐れずに言わせてもらうなら、サッカーのプロリーグで優勝したって言うから、すごいねぇって思ったら、実はJ3だった、みたいなことでしょう。あるカナダの有名なダウンウェアはブランド名ではグースを名乗るのに中身はダックなんです。違法ではないですが尊敬できる企業態度だとは思えません。娘婿はそのことを聞いて大いに驚いてます。それを見ていて、これは一度ここ倶樂部余話で取り上げておかないといけないなぁ、と思った次第。

 グースかダックかの他にも、その先にまだもっと評価の基準があります。先述のマザーグースかそうじゃないのか、これはダウンボールの大きさつまり保温性に影響します。最も重要視するのは洗浄です。洗剤やアレルギー物質が少しでも残っていたらアウトです。もうここで詳しくは言いませんが、当社が扱うフィンランドのヨーツェンが自らを世界最高品質のダウン、と自負するのには、そのすべての基準で頂点のレベルにある、ということを意味します。そしてヨーツェンほどリピータ比率の高いブランドは他にないのがその自負が嘘ではないことを物語っています。

 最後に、ダウンウェアは羽根をむしり取るので動物虐待に当たるのではないか、という疑念があることに触れておきます。マザーグースの場合、その生涯で数回にわたり胸のダウンを手作業で慎重に紡がれます。毛皮のように素材のために屠殺するのではなくて、ウールのように何度も採集できるのがダウンですし、また食肉としての活用もありますから、虐待には当たらないと考えます。(弥)