スーツにも誕生日があるらしい。服飾史家の中野香織さんによるとそれは1666年10月7日。つまり今年は350周年です。400年には生きてないので、ここは盛大にお祝いしましょうよ、と中野さんは呼び掛けています(註1)。中野さんにはかつてそのエッセイの中でアランセーターの話題で拙著をご紹介いただいた(註2)という恩義がありますので、ここは微力ながら一役買いたいと思う所存。
時の英国王はチャールズ2世。クロムウェルの独裁の後に王位に就き、数多くの愛人を持つ艶福家として知られた国王ですが、紳士服の歴史では大きな役割を果たしてくれていたのです。ペストやロンドン大火などの災いを一新し、また倹約のために、とこの日に男性宮廷服の改革宣言を発したのです。それまでは男性も女性のようにリボンやレースのフリフリを多用したダボついた格好をしていたのですが、ここから、上着(コート)+ベスト+下衣+シャツ+タイ、という五つの組み合わせの服装が誕生したのです。
と言っても、当時の絵図を見ると、上着の丈はうんと長く、下半身は半ズボン。長髪のカツラにハイヒール、と、現代のビジネススーツとは全く異なっているのですが、これが原型となり次第に洗練されて、現代のスーツのスタイルに進化していくわけです。
特にこの時に新登場したアイテムがベストでした。ところが現代この五つの組み合わせで一番省略されるのもまたベストなのです。だからスーツ生誕350年を祝うにはどうしようか、と考えたとき、こりゃスリーピース、三つ揃えの復活、を訴えることが最適だろう、と考えたわけです。
はい、ですので、当店のこの秋、スーツ生誕350周年記念キャンペーン、三つ揃えを作ろう、の始まりです。(弥)
註1…中野香織「祝:スーツ生誕350周年」BLOG/FITSGERALD BY FAIRFAX/Apr.08.2016
註2…中野香織「愛されるモード」(中央公論新社・2009年) P.169