倶樂部余話【405】きみの友だちYou’ve Got a Friend(2022年7月1日)


 一泊で奈良へ行ってきました。大阪から入って、富田林市寺内町、大和郡山市稗田環濠集落、橿原市今井町八木町、宇陀市大宇陀松山地区、と、三つの重伝建(文化庁指定の重要伝統的建造物群保存地区)を含む古い町並みを一人で歩き回ってきました。奈良県は大学2年のとき吉野から熊野へ友人とドライブ旅行で抜けて以来40数年ぶり、雨でずぶ濡れになりましたがそれはそれで楽しい小さな旅でした。

 そもそもなんで奈良なの、ということですが、奈良に住む76歳のA叔父に呼びつけられたからでした。私、親戚が多くて、おじおばが20人、いとこが2ダースもいますが、幼い頃からよく似ていると言われ続けてきたのが母の末弟のA叔父でした。8歳のころツイスト踊ってて火鉢のヤカンを蹴飛ばし足に熱湯をかぶった私をおぶって坂の上の病院まで駆け上がってくれた命の恩人でもあり、長じてはふたりとも大手アパレルRに大卒で入社(もちろん入社年も勤務地も違ってますが)するなど、縁の深い叔父貴です。同じくよく似ているといわれた私の母とその父つまり祖父が、ともに50代で早く亡くなっているので、きっと私も短命の血を継いでいるんだと信じているところがあり、いつしか11歳違いのこのA叔父が私の寿命を決めるんだろうなぁ、と思うようになっていたのです。

 そんなA叔父が昨年肺の病で三途の川の淵をさまよいました。コロナの当時ですからだれも見舞いにも行けません。これでいよいよ私の寿命もあと11年なのか、と覚悟を決めましたが、幸いなことに体に合う薬が見つかり、奇跡の復活を遂げたのでした。後遺症もあってなかなか遠出はできません。で、電話がかかってきました。お前に会いたい、と言います。最初は、しばらく会ってないからそのうちまた会いたいねぇ、の社交辞令的なものかとも思っていたのですが、そのうち毎週のように電話がかかっくる、出国間際の成田空港にまで電話が来る。ヤイチロに会いたいから奈良まで来い、一体いつ来るんだ、と。なんだか理由はよくわかんないけど無性に私に会いたいらしい、と思ったら、そんなこと言ってくれる人ってなかなか他にいないよなぁ、と、今度は涙が出るほど嬉しくなってきて、海外出張後、最短で取れる旅程で奈良まで行くことになったという次第。美味しい奈良の料理を食べてカラオケ行って、夜遅くまで、他愛のない昔ばなしばかり、楽しい一夜を過ごしました。私の寿命ももう少し伸びることになるみたいです。Aっちゃん、長生きしてくれ。

 きみの友だちYou’ve Got a Friendというキャロル・キングの歌があります。どんなときでも私を呼べばいい。春夏秋冬いつどこにいようとも、私はすぐにあなたのもとに駆けつけるから。知っててね、あなたにはそんな友だちがいるってことを。と歌います。こう言ってあげられる友だちを持ちたいし、こう言ってもらえる友だちでありたい。この世の中で自分にもそんな人がいるんだ、お前に会いたいから来い、なんて言ってくれる人がいるなんて、こんなありがたいことはない、嬉しいじゃないか、って、きっとこれから奈良漬を食べるたびに思い起こすんだろうなぁ。(弥)