倶樂部余話【十】リネンって麻のことじゃないの?(一九八九年七月十日)


今回は特に女性の方にもお読みいただきたいのです。

テーブルクロスやナプキン、シーツなどを「リネン類」と呼びます。元来、これらのものがリネン(亜麻)でできていたためで、今でも一部の高級ホテルではリネンが使用されています。

リネンが最高と言うのにはもちろん理由があります。他の繊維にはない、リネンの何よりの特徴は、汚れ(醤油、ソース、油、汗、血など)が普通の家庭洗濯で簡単に落ちてしまい、更に、黄ばむことなく洗うごとに白さが増すという点にあります。しかも吸水力は抜群で丈夫ときているので、「汚れやすいが絶対に汚れてはいけないもの」に最適なのです。

ふつう、カシミアやシルクなどは高価なものほど耐久性に乏しく、慎重な取り扱いを要しますが、この点でもリネンは逆で、グレードが上がるほどに機能性も優れてきます。だから、何千円もするハンカチも何万円もするテーブルクロスも惜しみなく実用できるのです。最高級のリネンの産地は北アイルランドで、特に「アイリッシュリネン」と呼ばれ珍重されています。

エジプトのミイラを包んでいる布がリネンであること、「自分のリネンは自分の家で洗え(=身内の恥をさらすな)」という古い諺、花嫁を祝福し友人が集まってリネン製品を贈り合う「リネン・シャワー」という習慣、ランジェリー、ライニング(裏地)、リノニューム(床敷き)の語源が「リネン」であること、など、いかにリネンがヨーロッパの家庭生活の中で深く関わり愛用されてきたかを物語るものです。

最近は良いテーブル良い食器にこだわる方が増えてきましたが、良いテーブルクロスや良い布巾となるとまだまだ情報不足のようです。そして、これだけ世の中が天然素材志向に戻っているのに、いまだキッチンは化学繊維で溢れています。

リネンの特性を最大に引き出すのは、衣類よりもむしろこれらのテーブルウェアですので、今回はテーブルシーンを演出するリネン製品を特集します。各種パネルや貴重なリネン原糸サンプルなども展示しますので、ぜひご来店いただき、リネンの清涼感に心爽やかなひとときをお過ごし下さい。

さて、表題の問いの答えです。確かにリネンは二十何種類ある麻の一種ですが、「麻」に相当する英語はなく、麻の八割以上が南方系のラミーで、リネンとは別のもの。従って、すべての麻をリネンと呼ぶのは誤りです。詳しくはご来店の際に。

 

 

※このとき、「アイリッシュ・リネン・ミュージアム」というイベントをやりまして、その告知です。余話【八】のところで触れた大阪のリネン問屋さんから得た知識、横浜のスカーフメーカーが経営されていたリネン製品の専門店から学んだ展示方法、更に地元で馴染みだったフランス料理屋から本物の洋食器を借りて、この三者の協力で、二週間ほど一階のスペースで行いました。

 

宮中晩餐会に使われる二重ダマスク織の菊柄のテーブルクロスなど、いろいろ貴重なものもお借りして、高級レストラン並のテーブルセッティングを展示しました。

 

懐かしい思いがありますが、横浜のリネンショップも今はなくなりましたし、協力してもらった静岡のレストランもご主人の体調不良からお店を閉めてしまいました。