倶樂部余話【九】愛着の一枚と永くつきあう方法(一九八九年六月十日)


良い物を愛着を持って永く大切に使う。英国人の気質のひとつである。彼らは家の家具を指し、以下に古いものを何台も永いこと使い続けているか、を誇り合っている。反面、新規買い替え需要を喚起しにくく、これが英国経済の停滞の一因ともされているようだ。

ともかくも、英国気質を謳う当店としては、愛着の持てる商品の充実とそのメンテナンスやリペアに最善の協力を、と考えている。今回はシャツのリペアについてお話ししたい。

腕時計をすると、どうしてもシャツの袖口が片方だけ擦り切れてきてしまう。こうなったら、袖口(カフ)を取り換えればよい。白無地のものであればカフの交換だけで済むが、色柄物などは衿も一緒に換えて、よりドレッシーなクレリック(衿と袖だけが白いシャツ)にしてしまう。ちなみに、クレリックとは牧師の意。その服装が黒の上着に白衿の立っているところから由来している。一九二〇年代にロンドンの株式仲買人たちが着始めたと言われている。

また、これからの季節なら、半袖にチョン切ってしまう、という手もある。あるいは、衿を外してしまい、スタンドカラー風にする。とたんにカジュアルな感じになり、これは女性にも人気が高い。

いよいよダメになったら、最後はハンカチに加工する。白蝶貝などの高級ボタンなら、取り外して保管しておくと、後々役に立つ。

ここまでやればシャツも本望だろう。ケチくさいとお思いだろうか。しかし、リペアを重ねれば新しいシャツを一枚買うよりかえって高くつくこともあるのだ。気に入った愛着のある一枚であればこそ、大切に着てもらいたいのである。

店側にも問題がある。リペアの方法も教えずに、買い替えましょう、と新しいものを売りつけてきたのだから。モノを売るばかりが店ではないとも思うのだが。

シャツのリペア、どうぞ遠慮なく、お持ち込みいただきたい。

 

 

※パンツの直しは、ウェストやら丈やら幅やら、わりと持ち込まれる方が多いのに、シャツのリペアを持ち込まれる方は少ないです。このように衿や袖を交換できるということをご存じない方が多いのでしょうね。