倶樂部余話【二十四】公式②「色のハシゴ」(一九九〇年十月十六日)


「倶樂部余話」も今回で二十四回目。私自身、原稿書き、ワープロ、コピー、宛名と一連の作業を終えないと、何か一息つけず、一月ごとの区切りようになっています。

毎号スクラップに綴っていただいてたり、「君の好きそうな話題だよ。」と資料をいただいたり、果ては「百回続いたら本にしてあげる。」などという奇特な方も現れたりで、「いつも送っていただいてありがとう。」と言われますが、こんな拙い作文をお読みいただいて、感謝したいのはむしろこちらの方です。

私の丸眼鏡のチンチクリンのイメージとこの文体とはどうも一致しにくいようで、新しいお客様からは未だに「どなたかが書いているんですか。」と問われます。「字が小さい。」というのもよく言われることで、いつもつい欲が出ていろいろと詰め込むので、あまり字体を大きくできなかったのを反省し、今回は幾分か大きくしまして、少しは読みやすくなっていることと思います。

内容に関しては、「もっと毒舌を」とか「今回はちと迫力不足」など手厳しいご批評もいただきます。前回の「公式①」についても「よくぞ言ってくれた。」という声の反面、「もっと君にしか書けないことを…」というご意見も頂戴しました。私としては、誰かが言わねば誰も教えてはくれないだろうと思って書いたのですが、結果、本当に読んでいただきたい方には「こんなことにゃ興味はないョ」と実際には読んではいただけずに、愛読者(?)には「何で今さらこんな初歩的な話を、野沢らしくもなく…」と感じられたという、大変皮肉なことになってしまったようです。これも私の文章力のいたらなさかと反省しつつ、今回はさらに初歩的なお話ですのでご勘弁の程を。それでは本題です。

公式②「色のハシゴ(色のかぶり)」。言葉では説明しにくいのですが、配色の基本ですのでしばらくお付き合い下さい。

例えば、紺と茶と赤の三配色のチェック柄のジャケットを着るとしますと、スラックスはこの三色の中の一色を取った無地で合わせます。赤いズボンを履く紳士はいませんから、この場合、紺か茶のスラックスということになります。

このように、使ってある色の中から一色を抜いて他のものと合わせることを、色が二つの物の間を橋渡しすることから「色のハシゴ」と呼んだりしています。

先ほどのジャケットに茶色のスラックスを合わせたとして、次に、紺色の細いストライプの入ったスポーツシャツを「紺のハシゴ」でつなぎ、タイは「赤のハシゴ」で赤地に緑のペイズリーあたりで合わせ、さらにポケットチーフはタイと「緑のハシゴ」でつなぐと同時にスラックスと「茶のハシゴ」でつないで、緑と茶の地味めの小紋柄などでどうでしょうか。

背広の柄にうっすらとブルーとピンクの縞が入っていたら…。迷わずブルーのシャツにピンク使いのタイ(またはその逆)を合わせます。

「お洒落な人」は、配色の中からベースになる色と効かせの色をうまく抜いて、面積のバランスを良くし、「色のハシゴ」をあちこちに掛けてコーディネートしています。(だから冬は楽しい!)単なる色気違いとは大違いです。

何気なく見過ごしているウィンドウのディスプレーも「色のハシゴ」を探しながら見ていくと結構面白い物です。街歩きの楽しみとしてお勧めいたします。

 

 

※今だと、例文のようなコントラスト三配色のコーディネートというのはあまり見かけません。ちょっと色の洪水、と見られるでしょうね。近ごろは、コントラスト配色の場合はせいぜい二配色に絞りますし、また同系色配色(モノトーンもそうですが、例えば紺とブルーなど)が主流になっていますからね。

 

記事より。オーダーシャツを刷新。第四回「カクテル・パーティ」の告知、など。