倶樂部余話【五十八】これからのキーワード「経済から離れて生活を楽しむこと」(一九九四年一月二四日)


41円で送る最後のハガキです。

年頭の挨拶が遅くなってすいません。アイルランド・ダブリンで四日間催された五百社の集う大見本市に出張していたためなのです。

欧米からはすべてお店のバイヤーが来ているのに対して、約二十人の日本人バイヤーのほとんどはいわゆる「問屋」の人で、日本の高価格の理由とされる複雑な流通構造の一因は、直接買い付けることに消極的な大手小売店の甘えと怠けにもあるのではないか、と痛感しました。私などは、モノづくりに一番近いところから「正しく(=製造背景などの豊富な情報を伝え聞き)」「安く」仕入れて、そして使う人に一番近いところで直接売ることこそが、この商売の原点であり、しかも最も醍醐味の楽しめる部分だと感じるのですが…

しかも、昨今、価格はバリューある適価であることが絶対ですし、今後はメーカーの過剰在庫を見越した買い叩きも期待できませんから、本物を適価で提供できる店独自の仕入れルートを持つことが必要になったと言えます。その意味で、この不況は当店の持ち味をアピールするいい機会になってくれるかな、と思っています。

と、いささか強気に言えるのは、実は、先月開催のカシミアコート半額提供&カシミアセーター来期予約会が、予想以上の大好評を博したことによります。まさにバブル崩壊が味方してくれた成功にほかなりません。

価値観がようやく変化して、多くの人が「生活の豊かさ」と「経済の贅沢さ」は別のものだと気付き始めました。経済的事情よりも生活での理由がものを買う買わないの分かれ目です。博報堂生活総合研究所は、今年の「生活予報」の中で、景気回復は「経済から離れて生活を楽しむこと」でなされる、と予測しています。いい言葉だな、と納得できます。そして、それこそが長い不況の中から英国人が体得してきた「英国気質」そのものだとも思うのです。