倶樂部余話【一〇三】向かい風ですが(一九九八年一月一三日)


年が明けました。元旦、私は大厄の厄除けに行きました。

明るい希望に溢れる新年のはずが、世の中のムードはとても悪い。確かに昨年後半の衣料品消費は最悪ともいえる状況です。その中で当店は、開店十周年、倶樂部余話百号という節目を弾みに、何とかほぼ計画通りに推移ができました。

「いいモノをやっててよかったな」とつくづく思います。いいモノを集めることでいいお客様と出会うことができたのですから。

よく皆「モノが売れない」と言います。確かに「何を」売るかは重要ですが、情報の飛び交う今時、安いモノは安いモノなりに、高額品は高額品なりに、モノが値に見合ったいいモノであることはもう当たり前です。モノの良い悪いに昔ほどの差はないように思います。むしろ、人の関心は「いつ」「どこで」「誰から」「どのように」「なぜ」買うか、その「買い方」に比重が移っているような気がしてなりません。インターネットでの買い方、コンビニでの買い方、通販での買い方、百貨店での買い方、それぞれの買い方に決して妥協することなく、充分な満足を感じられなければ、モノを買おうというところにまで到達しないのです。モノが売れないとは、言い換えれば、それだけ充分に満足な「売り方」を与えていける店やサービスが少なくなっているということではないでしょうか。

「売り方」は、モノと違って、一朝一夕には変えることはできません。無愛想な態度で不評の店が、いきなり「サービス一番店を目指します」なんてバッヂを付けたところで誰が信じるでしょう。

いくら楽観的な私でも、今年の商売の厳しさは並大抵のことではないように感じます。おまけに円安の加速は、価格をバブル時代に戻さないければやっていけない事態になっています。そんな中で、何より頼りになる強い味方、それが私たちの「売り方」を指示して下さるお客様の一人一人なのです。

追い風のとき、船は速く進みますが、舵がふらつき不安定になります。むしろ向かい風の方が、進みは遅くとも安定した舵がとれるものです。今年も一年、よろしくお付き合い下さい。