倶樂部余話【三十二】たまには失敗談も聞いて下さい(一九九一年七月二十三日)


 久々に失敗しました、この夏の「リダクション(割引)」。もちろん商品内容にも原因はあるのでしょうが、どうもそればかりとは言えないような気がしてます。

 後学のためにどんな店でも住所を記してくるように、と私からの指令を受けている我が妻の元には、六月末あたりから多い日で五枚以上もの「セール」のDMハガキが、毎日のように郵送されてきます。内容はどこも似たような「○月×日より何十%off!」。中には三年前に一度だけ利用した店から「お馴染みの上得意客に限り特別ご招待!」などと書いてあるものまであります。届いた数十枚のハガキを前に、妻曰く「ちっともワクワクしない。むしろだんだん冷めてくる。」と、のたまいます。

 セールだバーゲンだと一大決戦のように盛り上がっているのは店の方だけで、店側が大袈裟な謳い文句でノセよう煽ろうとすればするほど、客の方はシラけていくものなのかもしれません。いわばセールのDMは年賀状程度の重みしかなくて、ことさらにもったいつけなくとも、七月になれば安くなるのは当たり前でしょ、と見透かされているところがあるのじゃないでしょうか。

 当店のリダクションのご案内が他店より見劣りするものとは思えませんが、どう言い方を変えたところで「安くしたから買って下さい」という内容は結局同じです。値段を下げれば客は来るものと思い込んだ我々の「業界慣れ」の慢心がどこかにあったことは否定できません。過去二回のリダクションが好売上だったことからの自惚れもあったかもしれません。

 実際、リダクションせずとも買って下さるお客様が増えてきているのは事実ですし、いくら安くともサービスが低下するくらいなら買いたくない、という人が今後も増えてきても不思議ではありません。

 一方、リダクションの効能として、新規客のご来店という重要な側面もあります。その方たちは三割引で当倶樂部へ入会できるのだと考えればこれはメリットでしょう。

 誰のためのリダクションなのか、お得意様にとって当店に求められる「コンビニエンス」とは何なのか、今一度考えてみなければならないでしょう。

 それにしても、一番重要なのに一番難しいことは「お客様の立場に立つ」ということ、とつくづく思い知らされます。今回はいい勉強をさせてもらいました。

 

※納涼ハンカチまつり