倶樂部余話【382】 生まれ変わったらなに人になりたいですか?(2020年8月1日)


家族で夕食を摂りながら、何かの雑談からこんな話になりました。もし生まれ変わったらなに人になりたいか。ただし日本人という答えを除く。

妻は、ニュージーランドかな、と言います。行ったことはないのですが、親しい友人がクライストチャーチのNZ人に嫁いで久しく、近頃しょっちゅう連絡を取り合っているからでしょうか。いやいやもしかしたら熟年離婚してほんとに移住を考えているのかも。

私は、と言えば。妻は当然アイルランドと答えるものと思っていたようです。一番良く知っているし大好きな国であることは間違いありませんから。しかし私の口をついて出たのは、フィンランドかスウェーデン、どちらか一つと言われれば、ヨーツェンとの付き合いもあって理解の深いフィンランドだな。

フィンランドはあらゆる面で尊敬できるところの多い国ですが、特に教育についての考え方は素晴らしいと思っています。ひとつの例ですが、フィンランドでは教育はすべて無料、そして落ちこぼれは一人もいないそうです。また子供の頃から民族の神話をテキストにします。そしてその底辺に流れる北欧人の自然と文明との共存観が私を魅了します。うまく言えるかどうか自信がないのですが、こんな感覚。地球上で文明を手にしたことですべての動植物の頂点に立ったのが人間という生き物だが、文明は自然の流れを妨げたり抗ったりに加担するものであってはいけないという意識です。豊かだけど厳しい森と海と湖の自然環境のなかで、生きていくために自然界に人が手を加えて人工物を作り出す(これをデザインと呼ぶ)その意味。人間は自然に対して謙虚でなければいけないよ、逆らったりしちゃだめ、だって人間も自然の一部なんだからね、という考え方。高齢者に延命治療をしない、とか、あるいはポルノ解禁もその思想からだろうし、北欧に津波は来ないでしょうがもしも津波対策を考えるとしても壁のような防潮堤なんか絶対に発想しない、きっと津波に流されても浮かんで沈まないカプセル住宅みたいなものを考えるんじゃないか、と思います。核廃棄物を地下深くに閉じ込めて10万年掛けて無害にする、なんて施設は北欧でなければできないでしょう。

コロナへの取り組み方についても触れましょう。長年隣国からの脅威にさらされて来たフィンランドでは万一の細菌兵器の攻撃に備えた大量の防護服の備蓄があり、いち早く緊急医療体制が敷かれたことで、感染者が非常に少なくなっています。対して隣国スウェーデンのコロナ対策は、大変ユニークで世界でも注目されています。多数が自然感染して免疫を持つことでウイルスを抑制する「集団免疫」の獲得を目指しています。そして80才以上の高齢者は感染してもICUに入れず当然延命治療も施しません。スウェーデンでコロナの感染者数も致死率も異常に高いのはそのためです。このやり方を国民も支持していて、ある人はこれを死生観の違いと評していましたが、たしかに北欧の人でなければ採れなかった政策ではないでしょうか。

話を戻すと、生まれ変われたらフィンランド人、と思う人は私の他にもきっと多いんじゃないかなぁ、と感じています。根拠のひとつとして挙げると、国連が毎年発表する幸福度ランキングで、フィンランドは3年連続首位だそうです。上位をほぼ北欧が占めていて、スウェーデンが7位。8位がニュージーランドで、日本は62位、最下位の153位はアフガニスタンです。

そうそう、次女(20代後半)も答えを挙げました。イギリス人、だそうです。より突っ込んで聞くと、ロンドンに住むアングロサクソン系イングランド人、らしいです。訪問した諸外国の中でともかく英国ロンドンが最高だったらしく、ロンドンに住めりゃいいみたいですね。反対にアイルランドは嫌いだとこの私の前で宣います。理由は言いませんが、わかります、父が好きな国だから、なんですよ、きっと。父親の意見にはとりあえず逆らってみる、というこの曲がった性格は、父親譲りつまり私にそっくりでして、むっとしながらもちょっと微笑ましく感じたのでした。(弥)