倶樂部余話【383】 33回目で98年目の秋です(2020年9月1日)


今年に限って言うと、6月は5月の延長で、7月は6月の延長で、8月は7月の延長で、と、何となくずるずるとした気持ちで過ごしてしまった夏だった、と感じています。でも9月はそうはいきません。9月は決して8月の延長であってはいけないのです。気分をリセットして秋を迎える、9月は一年の始まりの月という心持ちで迎えたいのです。嬉しいことに今日9月に変わった途端に涼しくなりました。総理大臣も交代するようで、この時期のタイミングでの変化はいい傾向です。

明るい話題満載になるはずの9月に突入するに際して、その前に2つの会社の蹉跌について触れることにします。野沢さん、どう思います?、と感想を求められることも何度かあって、ここを逃してしまうとその機会をなくしてしまいそうなので。

まずブルックス・ブラザーズ(以下BB)。当店のはがき通信の実質的な第一号であった倶樂部余話【2】「拝啓 ヘンリィ・ブルックス様」(1988年10月)で、すでに30年前からこのブランドに対してのがっかり感をあらわにしていましたが、その後も何度かの身売りを繰り返した末に、今回はほぼ息の根が止まったと言っていいでしょう。ブランドは残るし日本法人の営業は継続するようですが、未来はないだろうと思います。
BBの戦略で一番落胆したのは自分で自分のまがい物を積極的に拡販していく姿勢でした。例えば青色のマークはアメリカ製だけど色違いのマークはアジア生産に置き換えたものだとか、あるいは学生や入門者用に作ったよく似た名前の格安ブランドだとか、一番呆れたのは正規店では見たこともないアウトレット専売品の大きな存在でした。BBで一番売上の大きい店は実は我が静岡県にあると聞いたことがあります。御殿場ですね。そしてその多くがアウトレット専売品で占められています。
そんなブランドが繁栄を続けられるはずもなく、早晩駄目になると思っていたので、今回の破綻の報を聞いて、よくここまで持ちこたえたものだ、と感心すらしたものです。

そのBBの青山通りの本店はかつてVAN(以下V)のあった場所。高校生の頃はVに就職するのもいいかなぁとも思っていましたがそのVが倒産してしまったので、大卒で入社したのが、紳士服専業ではトップ企業だったダーバン(以下D’)でした。わずか二年半の勤めで暇をもらうことになり静岡で家業を継ぎましたが、当時日の出の勢いだったD’での新入社員時代は仕事漬けながらも実に楽しい毎日でした。
D’の社名は英国海軍母艦レナウン(以下R)号の護衛艦に由来しましたが、後にその兄貴分Rの経営危機を救うために兄弟合併をし、母艦の名Rを引き継ぎました。おっとり長男とやんちゃな次男が一緒になってもプライドの張り合いばかりで求心力を欠くことになり、まさに船長なき巨大母艦が海図もなく漂流を続けた末に座礁したというのが、今回の経営破綻です。D’当時の同僚を含めて優秀な乗組員はみんなすでに下船してしまいましたし、また幸か不幸かD’ともRとも当社((株)ジャック野澤屋)はほとんど取引もなく、正直言って合併後のRにはなんの愛着もないのです。
ただ、私の経歴の中で、なくなってしまったのは幼稚園だけで、小学校、中学、高校、大学、とすべて現存しているので、自分の帰属していたところがついにまた一つ消えてしまったなぁ、という残念な気持ちだけがあります。

さて、暗い話はここまで。コロナ騒動ももうこれが新しい日常だと覚悟して、日々過ごすしかないので、以降は特に触れることもしないつもりです。さぁ明るい9月です。開店以来33回目、野澤屋創業98年目の秋を始めましょう。(弥)