倶樂部余話【345】被災地を観光する(2017年7月1日)


被災地へ。日本人としてそこで何が起こったのかを現地へ赴き知っておかなければ、とこの六年間ずっと願っていました。ようやく山形出張がらみでその機会が訪れ、朝の何時間だけですが、石巻と女川へ行ってきました。ここでその感想を書くつもりでしたがこれが意外に難しい。というのも、ふつう旅行記は、楽しかった面白かったおいしかった、と書いていきますが、被災地観光はそれとは趣旨が違います。そもそもこれを観光と呼んでもいいものなんでしょうか。
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震災前とその直後の様子の画像を事前に幾度も観て脳裏に焼き付け、それと眼前の景色の3つの光景を頭の中で重ね合わせながらその土地を実際に歩きます。道中、三人の人とゆっくり話をしました。まず乗客が私だけという空っぽの石巻発女川行き路線バスの運転手さん。沿線を事細かにガイドしてくれました。降車して向ったのは津波の最先端が襲った谷あいの集落。海も見えないほど奥まったところです。そこからは海側に向かって思いっきりかさ上げされた茶色い造成地がだだっ広く延々と続きそこにトラックが何台も行き交っています。ギリギリのところで流されずに済んだ民家で洗濯物を干していたおばちゃんからは、生死の境目が目の前にあったことを聞きました。石巻の日和山公園で隣に立っていたおじさんは眼下にあった自宅を失った方でした。「津波てんでんこ」がどれほどに大切な言い伝えなのか、教わりました。
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三人ともから「来てくれてありがとう」と言われました。そうか行くことだけでも感謝されるんだ、ならば「被災地観光」は不遜なことではないんだね、行ってよかった、そして誰もが一度は必ず行くべき観光地だ、と感じた、「いい旅」でした。(弥)