倶樂部余話【一七五の二】講演の顛末。後日談です(二〇〇三年七月一七日)


私の講義を聴講いただいたA学院大学の学生諸君へ

去る627日は、私のつたない講義を聴講していただき、ありがとうございました。

3週間が経ち、本日、諸君が提出したレポートが私の手元に届きました。私が採点するわけではありませんが、87枚のレポートを大変楽しく読みました。

話をした私自身、初めての経験という緊張と、しかも、時間の超過も許されず、じゃあ続きはまた次回に、という繰り延べもできない、という、大変時間に追われた状況もあり、しどろもどろの話になってしまったことに、そのあと、いささか自己嫌悪を感じていました。が、レポートを拝見し、私の話を最初から最後までしっかりと聞いてくれてある種の感動を覚えてくれた学生が少なからずいたのだ、ということを知り、大変嬉しく思っています。


 
実は、私は諸君にひとつの仕掛けを施しておきました。それは、全員にお配りしたレジュメです。このレジュメには、「アランセーターの伝説」の数々を、いかにも真実のように具体的に列挙しておきましたが、講義のかなり初めのうちに、「これらの伝説は実はほとんどが嘘で、良くできたセールストークだと考えます。」と、まず否定をしています。


 にもかかわらず、多くのレポートに、「柄が家紋になっていて、溺れた人の身元が分かる、とは、なんてすごいことだ。」などなど、書かれていて、ああこいつは講義途中から遅れて入ってきたんだな、とか、ははーんこいつはホントは私の話は聞かずにレジュメだけもらってそれを元に書いたな、とか、そんなことが容易に想像でき、諸君の作文創作能力の巧拙がうかがい知れ、何度か大笑いしてしまいました。(心配しなくてもいいですよ、担当教官には、そんなことは言いませんから。)

しかし、約25人のレポートは、大変秀逸で、二重丸を付けてあげたいぐらいです。私の言外の思いまで汲み取ってくれた人もいます。 本気かお世辞か、「今までの11回の講義の中で、今回の話が一番パワーがあった。」と書いてくれたY君、「話からアランセーターへの愛が伝わってきて、つい聞き入ってしまった。」というAさん、本当にありがとうね。

80枚の画像を使い、パワーポイントなどという不慣れなパソコンソフトを操作しながら、正直何度も何度もリハーサルをして、緊張しまくりの中で行った初めての講演でしたが、こういう滅多にできない経験ができ、今は、お話をお引き受けして良かったなぁ、と、感じています。

一期一会の機会でしたが、講義を聴いて下さった諸君には、感謝いたします。何年か先、「実は私、あのときセーターの話を聞いた学生ですが、あれからこのセーターがずうっと気になっていて、ようやく買いに来ました。」という人が一人ぐらい現れないものかなぁ、と、密かに願っています。

 

それでは。