倶樂部余話【一〇四】初めての東京展示会(一九九八年二月五日)


アイルランド出張から、今年は足止めもなく、無事帰国しました。

五回目の訪愛となった今回は、郊外の工場廻りに時間を割き、美しい緑の大地の中をレンタカーで走り回ってきました。最新のコンピュータ編み機を導入しているところもあれば、時代に取り残されたような田舎町で昔ながらの小さな紡績織物工場を六世代も守り続けているオヤジもいました。陶器の工房にも行きましたし、六年振りにアラン諸島を眺めることもできました。夜ともなれば地元のパブで夜な夜な名演奏に浸っておりました。

アイリッシュは生まれ育った土地への愛着がとても強く、故郷の自慢話を聞く度に,果たして日本人はこんなに気高く自分の故郷を誇れるものだろうか、と思うと、とても羨ましい気持ちがしました。

五十キロを超える持ち帰りの荷物の、半分は皆様への特別提供品(トランク・セール)、残りの半分が今月東京で催す展示会用のサンプルで、現在その準備に追われています。

この初の試みは、私が現地アイルランドで発掘や開発をしてきた日本未紹介の品々に興味を示してくれる同業者のために、アイルランド政府商務庁の支援を受けて実施するものです。

ただでさえ忙しそうなのに、東京の一流ホテルで展示会なんて、そんなでっかい事を始めて大丈夫なの、という危惧の声も正直あります。しかし、扱う品物はこの一年間当店でご紹介したものばかりですし、もちろん売り言葉も同じです。同じものを違う時期に違う相手に販売する、いわば二期作商法で、常に当店の方が1シーズン先行して動いていますから、何も全てに新しい事業を始めるわけではなく、「いいモノを発見してきて、それを紹介し、喜んでもらおう」という基本姿勢はまったく同じです。

つまり店をないがしろにして違うステップへ進もうとしているのではなく、あくまでも、始めに店ありき、の延長線上の仕事だと考えています。そして、必ず当店のお客様にいい効果がフィードバックされると確信しています。

とは言え、二月の入れ替え時期に三日間もスタッフごと店を空けるのは少し心苦しいものがあります。どうかご理解下さい。お江戸で一旗揚げてまいります。