倶樂部余話【一〇五】季節麻痺(一九九八年三月一〇日)


花粉症で、目薬とアイリッシュリネンのハンカチが欠かせない毎日です。変なことを言うようですが、実は私、この花粉症なるもの、結構好きなのです。

私の仕事上、秋の頃にはもう翌年の冬の仕掛けを考え始めるわけですから、常に一年先の四季が頭の中で混在しています。ときどき一体今が何月なのか一瞬忘れてしまうようなこともあります。そんな「季節麻痺」している私なのに、私の身体は春の訪れという微妙な季節の変化に明快な反応を示してくれます。自分も草木と同じひとつの生物なんだ、と言う感慨とでも言いましょうか。これほどに顕著に季節の変わり目を味わわせてくれる花粉症、私は嫌いになれないのです。

こんな気持ちにさせるもうひとつの要因として、冬の商いが終わり、ひと山超えたという安堵感があります。お陰様で秋冬の商いは二ケタ増の売上を記録し、あまり良い話の聞かれない今の時世で、この伸びは少しばかり誇れるのではないかと思います。しかも客数の伸びが著しく、この半年で約百名の新しいメンバーズのご登録をいただきました。もちろん数々の反省点はあるにせよ、ほぼ満足のいく半年だったと言えます。支えていただいた多くの方々に感謝いたします。

数字の小さくなる春夏期は、逆に遊ぶことのできる時期でもあります。スイスの下着、尾鷲の傘から、ニコラス・モスの陶器、アイリッシュドレスデン人形まで、春夏期ならではのゆとりある売場を楽しんでいただけると思います。もちろん、大好評でした「十周年企画」は春バージョンも提案いたします。

売上のバランスから言えば、確かに当店は冬の店でしょう。でも春夏のセヴィルロウ倶樂部もひと癖違ったいい味が出せるんですよ。

 

※開店十周年記念特別号・春の巻