「セヴィルロウ倶樂部」開店に寄せて。 石津謙介 (原文のまま)
「こだわる客」と「頑固な店」
ファッションをリードする人たちの年齢が若くなって、世界中のヤング達がすっかり、お洒落になってしまったような気がする。
ところが、ヨーロッパでも、アメリカでも、若い人のファッションと、大人のそれとがハッキリと分かれていて、お互いがよい形で影響し合いながら、ますます服装の分野を拡げて行く、そんな傾向が強く感じられる。日本のヤング達は、社会の中心人物である中高年層のことなんか、全く知らぬ人が多い。欧米では、ヤング達はそれなりに、自由奔放に青春を楽しんではいても、社会人となる日のことを考えて、ちゃんとそれなりの常識を学び、社会に通用する身ごしらえに徹底しようとする。ところが、日本では、世界の若人たちと変わらぬくらい、ファッショナブルなヤング達がいるのに対して、世の中の中心であるべき中高年層のファッション意識が、なかなか前進してこないのが残念である。
その理由は「服に哲学がない」からである。ただやたらにヤングのファッションにまどわされたり、昔ながらの洋服にこびりついたりする。
服の持つ昔からの傳統、社会人としてのあり方、そして、日本の中の洋服の着方、それこそがオトナのファッションである、それをよく、深く眺めて、自分の着る服に、自分が責任を持つ。そのためには、「服装哲学」を持たねばならぬ。服の持つ傳統と歴史を見つめて、それを自分のものにする。頑固に自分を押し通す。こんな大人が、社会人が早く、そして沢山育ってほしい。
そんな人を育てるための頑固な店を、着る側が育てて行く。そんな心構えの方が、もっともっと大切なことかも知れぬ。