【倶樂部余話】 No.271 靴もベルトも服のうち? (2011.6.15)


 店で扱う品を素材の順にすると、毛、綿、の次は、麻でも絹でもなくて、「革」なのです。レザーは思いのほか重要なウェイトを占めているのです。
 靴を「履く」、ベルトを「締める」、手袋を「填(は)める」。日本語の表現は実に豊かですが、英語ではすべて動詞はwearです。あと、帽子を「被(かぶ)る」、もやはりwearです。ですから、靴もベルトも手袋も帽子も、西洋風には広義にみなwear(=衣類)と総称してもよいのでしょう。洋服屋がこれらを一緒に扱うことに違和感がないのは、そんな理由からかもしれませんね。
 洋服も革靴も、日本ではともに明治の文明開化からその歴史が始まりました。洋服は誂え(オーダー)から大正昭和と経て徐々に既製服への流れを歩みましたが、靴の方は比較的早くから既製品化が進み、そのため足に靴を合わせるのではなくて、逆に靴に足を合わせる、ということが普通の感覚に思えるようになってしまったのでしょう。これは、江戸時代からもともと和服も誂えることが珍しくなかったのに対して、下駄・草履・足袋などの履物はとっくに既製品として存在していたことも関係しているのではないかと思われます。
 だからでしょうか、スーツを作ろう!シャツを作ろう!という呼び掛けに抵抗を示す方は少ないのですが、靴を作ろう!との誘いには「何もわざわざ誂えなくっても…」と、かなり珍しいことのように躊躇される方が多いのも仕方ないことなのかもしれません。服では当たり前の「一点流しのパターンオーダー」を革靴の世界で実現した宮城興業の仕組みは世界でも類を見ない「コロンブスの卵」的な快挙であって(ついに特許申請をするらしいですね)、思ったよりも簡単に自分に合った靴ができるのに、悔しいかな、靴を作るのはどうも服を作るよりも気持ちのハードルが高いようなのです。
 なので、服の売上が一段落する夏のこの時期は、毎年誂え靴のキャンペーンを張ることにしています。特に「はじめの一足」の方を大優遇します。「とにかくまず一足作っていただければ」の思いが強いので。実際それほど面倒なことではありません。ぜひお気軽にお出掛けいただければと願っています。(弥)