【倶樂部余話】 No.275 ボストンみやげで経済学 (2011.10.1)


 大学生の長女が夏休みにボストンに行くというので、「ハーバード大学の生協でコレ買ってきて」とメールを送りました。40年前に初めてアメリカ旅行に行った父から土産でもらった69㌣のノートです。別段珍しいモノではなかったと思うのですが、私にとっては、これこそアイビーの本物だぞ、と、割と大切に使ったものでありました。現地からメールが届き「表紙が少し違うけどほぼ同じモノありました。でも値段は 40年前の8倍です」と。ということは10年ごとに倍々かぁ。米国の物価って随分と上がったんだなあと実感します。娘へ返信。「ドルでは8倍でも円換算だと、驚くなかれたったの2倍なんです。40年前は1㌦=300円の時代、今はその1/4だからね。」
 そう言いながらも、えっホントかなぁ、と思って、今度はこの40年間の日本の物価指数を調べてみました。すると、前半の20年で3倍に上がったきり、それ以降の後半20年間というもの我が国の物価はほとんど上がってないのです。いわゆる「失われた20年」にあたるところです。その間米国や欧州の物価は上がり続け同時に円高も進みました。そしてちょっと計算してみたら面白いことが分かりました。このノートの値段は円にするとこの20年間ずっと変わらないのです。経済学者が「物価の変化を加味すると今の為替水準は異常な円高ではない」と言っているのがようやく理解できました。
 同じ様なことが、先日アイルランドから3年振りに仕入れた商品でも起こりました。3年前と全く同じジャケットを頼んだところ、現地の価格は4割も上がっていて「こりゃ困ったなあ」と頭を抱えていたのですが、入荷してみたらユーロが4割安くなっていて、結果として仕入れ値は変わらなかったというオチになったのです。
 一冊のノートのおかげで、為替と物価の勉強ができました。さて当時の69㌣は今の貨幣価値に直すと1,600円。私は随分と贅沢なノートを父からもらったのですね。(弥)

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