【倶樂部余話】 No.274 ぜんぶお任せで (2011.8.25)


 「ぜんぶお任せしますので」というお客様。実はこれが一番難しい注文でして、どちらかというと苦手なほうでした。
 スーツにせよ、シャツや靴にせよ、オーダーの場合には寸法を採ること以外に、決めなければいけないことが山ほどあります。着用頻度、素材決め、季節は、価格は、裏地やボタンは、オプションはどうする、と数々の選択肢のうちから、ああしよう、こうしようと、悩みながら話し合いながら決めていく、これがオーダーすることの醍醐味で楽しみだと思うので、できるだけお客様には時間を取ってもらい、一緒に決めていく方がいいのだ、と考えていました。ですから「面倒くさいよ」という方にもお付き合いいただいてバカ正直にひとつひとつ確認をしながら進めました。まあ、要望を完全に汲み取れる自信もありませんし、後から「こんなこと頼んでないよ」と怒られるのも怖いものですし。
 しかし、近頃、思い直しました。それは、自分への逃げであり、言い訳であり、本物のプロではない、と。どんな理由だろうと「任せる」と頼まれた以上は、瞬時にしてその人の嗜好と目的を見抜き、なるべく時間と手間を煩わすことなく、限りなく「お任せ」いただいてしかもベストな満足感も味わっていただく。これこそが真のプロではないだろうか、と。
 正直、怖いです、自信ないです、ビビります。でも今後は「ぜんぶお任せで」と言われても引くことなく、にっこり笑顔で「はい、安心してお任せ下さい」とお受けできるように努めます。(弥)