倶樂部余話【三十四】アラン島は斑鳩(いかるが)の里(一九九一年九月十七日)


九月、いよいよ第四回「アランセーターの世界」の開幕です。

普段は英国英国と言っているのに、なぜこのときだけアイルランドに肩入れするの、と、たまに質問されますので、簡単にご説明をしておかねばならないでしょう。

例えばあなたが京都がたまらなく好きだったとしましょう。当然、京都への憧れを受け継いで合理的にアレンジされていった鎌倉にも興味を持つでしょうし、また京都のルーツを探してより素朴な奈良にも関心を抱くことと思います。

この奈良と京都と鎌倉の関係がアイルランドと英国とアメリカの関係にちょうど良く似ています。文化や歴史の流れ方もそうですし、地理的にも英国の西隣りがアイルランドで、アメリカとは箱根の山ならぬ大西洋の隔たりがあります。

一口に英国(United Kingdom=UK)と言っても、イングランド、スコットランド、ウェールズに分かれていることはよくご存じのことと思いますが、アイルランドも一九二二年の独立まではUKの一部でした。支配しているイングランドはゲルマン系のアングロサクソン人、追いやられた他の三国はケルト系です。今でこそどこでも英語が通じますが、各々に固有の言語を持っていて、アイルランドの第一公用語は未だにゲール語とされています。

英国に憧れ英国らしい事柄をたどっていくと、意外にもそれが実はイングランドにはないことが多いのに気が付きます。ウィスキーはスコットランド、すなわちスコッチが有名で、しかもその発祥はアイルランドです。タータンチェック、ハリスツイード、シェットランド・フェアアイル・アーガイルなどのセーター、などもみんなスコットランドですが、そもそもスコット人はアイルランドから渡った人々ですので、家柄を図柄で現したりセーターに柄を入れ込むといった発想はもともとアイルランドで生まれたものです。

イングランドと地続きのスコットランドやウェールズに比べ、海一つ隔てたアイルランドには、かえって英国が失ってしまった素朴で懐かしい英国らしさが未だに残っているような気がします。

アラン島はアイルランドの西のはずれの孤島。イングランドからは最も遠く、その影響を一番受けにくいところに位置しており、今も日常生活の中に古代ケルトの文化が残り伝統や習慣がそのまま息づいているといいます。言うならば、アラン島はさしずめ「斑鳩の里」ということになりましょうか。

「学者と聖人の島」「妖精の住む島」アイルランドに、私たちの先人はこういう漢字を当てました。「愛蘭土」。何と心暖まる響きではないでしょうか。

 

※静岡新聞の文化面に取材記事が載り、問い合わせや来場者多く、大盛況。
 

※守安さん夫妻による店内コンサート「アイルランド・ナイト」実施。アランセーターを着てくるとギネスが一杯無料になった。
 

※今回の購入特典として、購入者にはアイルランドのオシォコン氏からユニセフのクリスマスカードが贈られた。