倶樂部余話【七十三】バイヤー気分(一九九五年七月五日)


先日テレビ番組で当世の流行で「通販」と「オーダーメイド」を特集していました。番組では、手軽さと面倒さの両極として対比していましたが、この二つ、実は両極どころか同質のものではないかと思うのです。

どちらも目の前に現物はなく、欲しい物を注文書に記入して発注。しばらくして品物が届く。つまりこれはバイヤー(仕入れ担当者)のバイイング(買い付け)とまったく同じ手順であり、このバイヤー気分を味わえる喜びこそが人気の本質だと思うのです。当店の冬物予約方式が成功しているのも同じ理由だと言えるでしょう。

かつて服飾専門学生の志望はデザイナーばかりでしたが、近頃はバイヤー志望が急増しているそうです。私自身十年選手のバイヤーとして、感性と数字の狭間で試行錯誤の末、年間数千万円のオーダーを出します。リスクを負いながらもその知的なプロセスを存分に楽しんでいることは事実です。

バイヤー気分を味わえる店、というのも当店の特徴とは言えないでしょうか。