倶樂部余話【一四四】エイプリールフールですが(二〇〇一年四月一日)


聖パトリック・ディも間近のある日、アイルランドから首相が来日するというので、いそいそと帝国ホテルの昼食会に出掛けました。

急遽首相の代行で副首相の来日となりましたが、IT企業など約60社の大使節団を引き連れての訪日で、貧しい農業国からこの10年間で最先端の工業国へ変貌を遂げ、欧州一の経済成長を誇るアイルランドの姿を強くアピールしたのでした。

自分が深く関わってきた国が繁栄していくのはもちろん嬉しいことには違いないのですが、反面、独特な伝統的手工芸の分野が次第に衰退していく寂しさもあり、多少複雑な思いでした。

閑話休題。「それって、インチキじゃないの?」と憤ってしまった話をいくつか…。

ブ*ックス・ブ*ザースの御殿場アウトレットは、青山本店を凌ぐ売上ですが、何とその八割がアウトレット専用商品だというのです。私は、日経流通新聞のこの記事を読んで、あいた口が塞がりませんでした。

会社の制服をユニクロで揃えた、という話はよく聞きますが、ある専門店では、ユニクロで買ってきたチノパンツを、ラベルを外して、倍の値段で売っているらしい、という噂を聞きました。 私も海外の店で珍しいものを買ってきて自店で販売することはありますが、出所も明かしてますし、そこには付加価値を加えているつもりです。商人としてのモラルを疑ってしまいます。

次の矛先は、靴のホー*ンス。このブランドの下には必ずイングランドと書かれており、時折出る新聞の全面広告にも、英国のホー*ンス氏が始めたこの靴は…、とたっぷりと英国ストーリーが並んでいて、 中国製だとは片隅にも触れられていません。確かに英国の商標ではありますが、英国内では最近まで販売すらされていなかった靴なのに、です。 メード・イン~とさえ付けなければ、どこ製であろうと、イギリスもイタリアもフランスも付け放題、というのが商標なのですね。

商売なんて嘘八百並べても売れればいい、商人に嘘はつきもの、と豪語する人もいますが、私はとてもそんな開き直った気持ちは持てません。やはり、正直・誠実こそが商人の原点のはず。

もっとも、私は絶対に嘘のない商売をしている、と言ったら、それはそれで嘘になるのでしょうが…。