倶樂部余話【一四五】オヒョイさんのお見送り(二〇〇一年四月二七日)


オヒョイさんこと、俳優の藤村俊二がオーナーのレストランバー、南青山「オヒョイズ」へ行ったときのこと。

店作りはさながら英国パブ、壁に並ぶビンテージワインの数々、男性スタッフ(恐らく役者の卵?)の軽妙な応対、珍しい食材の料理、そして店の奥にたたずむオーナーの姿。 私たちは小一時間過ごし、その勘定は納得のいくものではありましたが、正直、自腹で何度も来るというにはチトきついな、と感じながら、出口へ向かいました。

すると、オヒョイさんが見送りに来てくれます。それも旧知の間柄のような笑顔とユーモアを添えて。私達が見えなくなるまで、ずっとドアの柱に寄り掛かって微笑んでいます。 その姿はお店のグラスやマッチに使われているシルエットマークそのもの。一見客の我々にここまでの見送り、すっかり感激し、また来たい、と思ったのでした。

聞けば、彼は殆どの客をこうして見送っているとのこと。親しい人との弾んだ会話を中断してまで、見ず知らずの客を見送るのだそうで、これは信念なくしてはできる芸当ではありません。

接客業の基本の一つ、お客様のお見送り。その最高のお手本をオヒョイさんに見せてもらった一夜でした。