倶樂部余話【428】『明日を綴る写真館』 (2024年6月1日)


 去年の暮れ、年の瀬も押し迫った頃、岡崎市でウェディングパーティに参列しました。私の宝物、モーリンのアランセーターを着て。
きっかけは半年前の一本のメール。初めまして、スタイリストのKと申します。俳優・平泉成さん、80歳にして映画初主演の作品が制作されます。衣装協力をお願いしたいのですが、との要請。衣装提供はローカルのテレビ番組では何度もありますが、映画は初めてです。店の品揃えを極度に絞りきってしまった今、当店に期待されている衣装といえば当然アランセーターでしょう、雑誌媒体への貸出は過去に数え切れないほどやりましたが、映像は初体験。しかも主演の衣装です。当店でよければ是非に、とお答えして、急いで数枚のセーターを候補として制作会議に提出したところ、2枚のカーディガンが採用です、と、連絡。白と紺、いずれも非売品扱いでビンテージ級の秀作が選ばれました。どんな場面で着てもらえるのかな、実際に現場に見学なんてできるのかなぁ、作品の舞台は平泉さんの地元・岡崎らしい、ロケが岡崎なら行けるなぁ、なんて、ミーハーな気持ちを伝えたら、こんな返事。「アランセーターを着るシーンは岡崎じゃなくて都内某所で撮ります。見学は難しいです。岡崎ではクライマックスの結婚式のシーンを撮りますが、そのときに市民ボランティアでエキストラを集めます。一緒に加わってみませんか」。ま、出たがりの私ですから断る理由はないですね。わくわくして、私「じゃ白いアランセーターを着ていってもいいですか。もともと白いアランセーターは教会の儀式に着られたものなんです。だから結婚式にはふさわしい衣装でしょ」。
かくして私、クリスマスの翌々日にいそいそと岡崎へ。演劇の現場経験はありますが映画の撮影現場は初めて。こんなに何度も何度も同じ場面を様々な角度から撮るものなんですね。キャストもスタッフも待機の時間のほうが長いくらい、待つのも仕事のうち、です。カメラの後ろ側にあんなにもいろんな人たちがうごめいているなんて、いや、面白い体験をしました。これも長年アランセーターをやってた役得だね。
この話、解禁日までは箝口令でしたので、ようやくここでお話できました。映画『明日を綴る写真館』は間もなく公開です(6/7より)。2枚のアラン・カーディガンがどこにどう登場するのか、私はスクリーンの隅っこに一体どうやってどのくらい映っているのか、私も初日の上映を観るまで全くわかりません。ただ事前の情報ではほのぼのとした愛情に包まれる微笑ましい作品に仕上がっているようです。ご興味がありましたらご覧ください。(弥)

映画『明日を綴る写真館』公式サイト
https://ashita-shashinkan-movie.asmik-ace.co.jp/

(追記)
今、初日の初回を観てきました。全部カットされてなんにも映ってなかったら、と言うことだってあるかも、って心配で。
はい、ちゃんと、アランセーターも私自身も、しっかりと入ってました。とってもいいシーンに使われてます。
作品は大変素晴らしい仕上がりで、何度かうるうるしました。ぜひご覧ください。