倶樂部余話【427】セカンドライフ (2024年5月1日)


 手持ちのレコード約300枚を処分しました。理由はいろいろあります。5つ下のかわいがってた後輩が余命一年弱との宣告を受けて見事な終活の後に身罷ったことに啓発され、あるいは自分の聴力が衰えて慣れ親しんだ音楽を聞いても思い出の中にある音とは全く違うように聞こえてしまうことだったり、あるいはもし自分が今死んだら一番処分に困るのがレコードだろうと容易に想像できたこと、あるいは大きなスピーカーで大音量でレコードを聞く機会はもうないだろうとの諦観、あるいは古物商の仕事を始めるに当たりまず客として実際に古物の取引を体験してみたかったし、などなど。

 引き取った店が作ってくれた買取リストが別添のもの。ね、私、結構いいもの持ってたんですよ。値は伏せますが価格順に書いてあります。竹内まりや、山下達郎、は、やはり高値なんですね。ここに書いてない大半のものは値が付かなかった約200枚ということでして、特に1980年前後にアメリカ旅行や当時出来たばかりの渋谷のタワーレコードで貪るように買い漁っていた多くの輸入盤は残念ながらほとんどゼロ円、それと日本の歌手のものもほぼゼロ円でした。300枚で2万円ちょい、という戦果、現実はそんなもんなのかなぁ、と思った次第です。

 同じ頃に入った情報で、当社が世界一のダウンと自負するフィンランドのヨーツェンが自社の中古品を引取って直営店で再販売する事業を本格化させていました。そのプロジェクトの名がセカンドライフ。セカンドハンド(セコハン)と言わずにセカンドライフです。この単語、日本では余生と訳されたりしますが、自社製品に第二の人生を歩ませてやろう、という親心を感じます。さすがヨーツェン、さすがフィンランド、と思わせます。

 それを聞いて思い出したのが、アランセーターの我が恩師亡きパドレイグ・オシォコンPadraig O’Siochainの言葉。「アランセーターは一生モノですよね」との問いかけに彼は「ノー」と答えたのです。続けて発した言葉が忘れられません。「スリー・ジェネレーションズ」。一生じゃなくて3世代なんです。

 そんな矢先に、当社のアランセーターの供給先のひとつである、アイルランド・ゴールウェイのショップ「オモーリャO’Maille」が店を閉めるというニュースが入りました。アイルランドでは全国版のテレビニュースになるほどの大きな扱いです。私はすでに3年ほど前に店主アン・オモーリャAnne O’Mailleから事業の縮小計画を聞かされていたのでさほど驚くことはなくて、むしろハッピー・リタイアできたことに拍手を贈ります、と彼女にメッセージを送りました。しかし、現実問題として、アランセーターの大きな供給源をひとつなくすことになってしまったのは事実です。

 上記の事柄を頭の中で巡らせながら床についた私は、ある朝ひらめいて目覚めました。そうだよ、アランセーターのセカンドライフ、これが私の役目だろう。

 お手持ちの品でセカンドライフを与えてあげられるアランセーターをお持ちの方、行き先がないのでしたら是非お譲りください。有償で引き取ります。目安は販売当時の価格の一割程度です。私が目利きできないといけないので、当店で販売したアイルランド製のブランドに限ります。同時に我が家で眠っているデッドストックや父の遺品も供出します。夏の間に集めてデータ化し、秋に再販売を開始する予定です。これなら譲れるよ、との品は写真を添えてこちらまでメール等でご連絡ください。(弥)