倶樂部裏話[7]早すぎるクリスマス(2003.11.10)


 今年はなかなか寒くなりませんね。今日(11月7日)は夏日(25℃超)を記録したとか。街ではまだまだ半袖一枚の人さえ見かけます。もっとも、暖冬ということでは、ここ静岡はいつでも暖冬の地ですから、他の寒冷地に比べれば、その影響は少ないだろうと感じていますが。
 そんな陽気なのに、デパートでは早くもクリスマスの装飾が始まりました。クリスマスも前倒しのようで、さすがにこれにはいささか呆れます。一年12ヶ月のうちの約二ヶ月も、つまり一年の六分の一がクリスマス・ディスプレーになるということです。まさか、12月になったらお正月を前倒しして門松を立て、年の暮れには早々にバレンタインでも始めるつもりでしょうか。
 いうまでもなく、クリスマスはイエス・キリストの聖誕祭で、元来は欧州の習慣です。英国のクリスマス・シーズンはまず11月半ばの日曜日に家族全員で行うクリスマス・プディングの仕込みから始まるようですが、一般にクリスマスの期間というのは12月1日からアドベント(降臨節)が始まり、徐々にキリストの降誕を待ちわびる気持ちを盛り上げていきます。そして、クリスマス当日は、お店もレストランもバスも電車もみんなお休みして、教会や家庭で静かに過ごす。そこから新年までがクリスマス休暇で、クリスマスの装飾も新年までそのまま飾られています。ある年、一月の中旬にアイルランドの家庭を訪れたら、おばあちゃんが作ったというクリスマス・プディングがまだあって、ごちそうになりました。本場のクリスマスは、あとまであとまでずぅっと尾を引いているものなんですね。
 なにもすべてを欧州に習うのがいいことばかりではないでしょうが、日本の小売業は、商売本意に11月の頭から人の気持ちの盛り上がりはお構いなしにクリスマス騒ぎを始め、それでいて、クリスマス当日の夜には大急ぎでお正月に模様替え、というのも、なんだかねぇ、と思いませんか。
 もっとも、流通業に身を置く者としては、クリスマスを前倒しにする魂胆が読めなくもありません。たぶん、12月に入ったらすぐに価格訴求品の売り出しに取りかかりたいからなのでしょう。つまり、セールを前倒ししたい、という意図が見え見えなのです。
 でも、皮肉なことに、お客様の方はどんどん後倒しになっているのです。これは私が8月に倶樂部余話【177】で指摘したとおりです。まして、今年は残暑と暖冬が続いているのでその後倒し傾向に拍車が掛かっています。お客様の気持ちは、シーズンが来たら慌てずに買おう、となってきているのに、売る側だけの都合で、早く買って、と叫んでも、効果が薄いことは目に見えています。それは、値段が高い安いの問題とは別の次元です。それが分かっていてもそうせざるを得ないのは、「先んずれば人を制す」という競争心理に他ならないのですが、それはすなわち、自分の店はよそと同じようなモノを売っている、という、品揃えの同質化を自ら認めてそれにおののいているということではないでしょうか。自分の店の商品に自信があるならば、(確かにお客さんの動きはいつもよりも遅い。でも、売れないのではない、ただ遅れているだけだ。)とは考えられないのでしょうか。「せいては事をし損じる」だと思うのですよ。
 早すぎるデパートのクリスマスツリーを眺めながら、そんなことを考えました。(弥)