倶樂部余話【一九二】メンクラ街アイ世代に告ぐ(二〇〇五年一月一〇日)


 45歳以上の男性客のご来店が確実に増え始めました。かつて当社が運営していたJACKKENT当時の顧客であった方も少なくなく、「お帰りなさい」といった感があります。また、こちらとしても仕入れの際に「昔取った杵柄」が役に立つ機会が増えたように思います。
 ただ「なんだか懐かしいなぁ。今どきまだこんな店があったんだねぇ」などと言われると、当方としては、嬉しいやら悲しいやら、ちょっと困惑してしまうのです。

 そもそも、なぜ多くのメンズショップが消滅していったのに、当店は潰れずに存続できているのか、を考えてみて欲しいと思うのです。前者は「待てど暮らせど来ぬ」客を宵待草のごとく待ち続け、あげくに客と心中していってしまったのですけれど、当店は、確かに「英国気質」を軸にしましたが、しかし「トラッドは永遠に変わらない」という狂信的妄想からは抜け出して、運良くその客層を20代後半の男女にまで拡げることができたからだ、と思っています。そう、うちは、遺跡でも博物館でもないんです。ファッションはらせん階段、同じところに戻っているようで実は違う場所にいる、その変化が容認できず「昔と違うじゃないの」と化石の頭脳でノスタルジックに懐古されても、それは筋違いというものです。

 それから、「メンクラ街アイ世代(雑誌「メンズクラブ」の名物企画「街のアイビーリーガーズ」にちなんで)」に相変わらず多いのが、まだ地図帳にソビエトや東独があった頃に学んだカビまみれの服飾知識を話したいだけ話して、それでいて商品はろくに見ないで帰る人。「釈迦に説法」とまでは言いませんが、すでに私はそんな方を暖かく容認する寛容さを持ち合わせなくなりました。消えていった仲間たちの店の轍を踏みたくはありませんし、昨今の「オトナの復権」(あるいは、決して好きな表現ではありませんが、「ちょいワル、モテるオヤジ」のブーム、とも言います)は、その経済力が基盤になっているのですから、若い頃は大目に見てくれただろうそんな冷やかしも、いい大人になればそうそう通用はしないものだと考えていただきたいと思うのです。

 今回はいささか挑発的に書きました。愛すべき兄貴たちにいつまでも素晴らしいお客様であり続けていて欲しいという思いから、発奮を願ってあえて辛口にいたしましたので、どうかご容赦下さい。