倶樂部余話【二十一】恒例十日間だけの博物館です(一九九〇年六月十二日)


好評の昨年に引き続き、今年も「アイルランド・リネン博物館」を開催します。今年も大阪のリネン博士の問屋さんから、美術品の域に達するものを含め、大変貴重な品々をお借りして展示いたします。

「リネン(亜麻)」と「麻」との違い、リネンだけが持つ数々の素晴らしい特性(吸水性、速乾性、強靱性、汚れ落ち、純白性など)、欧州の生活風景の中でのリネンの古い歴史、などについては、昨年『余話【十】』でお話ししましたので、すでにご理解のことと思います。

そこで今回は出展品のいくつかをご紹介することといたします。

☆マデイラ刺繍(非売品)…モロッコの西方沖約八百㎞、大西洋に浮かぶポルトガル領マデイラ島。マデイラ・ワインで知られるこの島に、かつてスワトウの源流とされる、非常に手の込んだ刺繍がありました。細かな刺繍を施すため、極細で強靱な繊維、しかも実用性に富むアイリッシュリネンが生地に使われています。残念なことにその伝統技術も次第になくなり、現在では生産不可能な芸術品です。

☆スワトウ刺繍(三万円~)…香港の北東にある港町スワトウ(仙頭)に伝わるもので、熟練者が一ヶ月かけてようやく一枚仕上がる、というほどの細かい手刺繍が施されたハンカチーフです。製作風景のビデオも上映いたします。

☆アイリッシュリネンのシーツ(ダブルサイズ六万円)&ピローケース(七千五百円)…一流ホテルの特等客室で純白のリネンのシーツが好んで使われるのは、その寝心地の素晴らしさと同時に、清潔さを証明した誇りでもあります。今回展示するのは、東京・パレスホテルに今年納入されたものです。

☆リネンのフェイスタオル(四千円)…こんな薄い生地でタオルになるのか、と思われるでしょう。かつて某一流ホテルで使われていましたが、あまりの重宝さに宿泊客が持ち帰ってしまう例が後を絶たず、取り扱いをやめたとか。

☆アイリッシュリネンのテーブルクロス(一万五千円~)…先日の韓国大統領との宮中晩餐会でも使われた宮内庁御用達のもの。菊の柄のダブルダマスク織りが大変見事です。

☆最高級リネン原糸の束…「亜麻色の髪」とはまさにこのこと。ベルギーのリネン博物館に展示されていた貴重品です。

☆その他、リネンの特性が体験できる実演コーナーを設けます。

地球環境の保護への関心が高まり、エコロジーがキーワードの今日です。大量の石油や木材の資源を使う化学製品の生産力や宣伝力に押され、「知る人ぞ知る」的な需要になってしまったリネン製品も、今後はその評価が改めて見直されてくるに違いありません。

多くの方のご来場をお待ちしております。もちろん入場無料です。十日間だけの館長より。

 

 

 

※思えば、この提案は少し早すぎたのかも知れません。今ならリネンはもっと認知度が高いですよね。

 

同時期に、第三回「カクテル・パーティ」を、ホテルのバーを会場に実施しています。メキシコのリゾート地カンクーンをイメージしたテキーラのパーティでした。