倶樂部余話【349】 還暦に思うこと (2017年11月1日)


ご記憶の顧客も少なくなっているかもしれませんが、開店当初は時々カクテルパーティというのを企画していました。27年前の12月に開催した第4回カクテルパーティはちょっと趣が変わっていて、その最後の20分を父の還暦祝いに充てました。そしてその時は誰にも言えなかったのですが、父より三つ若い母は当時すでに余命の限られた身体でしたので、3年早いけど母の還暦祝いも一緒にしてやろう、という隠れた思いも込めました。映画カサブランカを模したカフェでタキシード姿の顧客たちに囲まれて微笑む父母の姿は今も忘れられません。

そして、母の歳を超え、父を見送り、私、まもなく還暦。なんですが、なんだか予感していたのとは感覚が違うのですね。つまり、27年前の両親にしても、12年前の恩師にしても、5年前の先輩たちにしても、老齢者という柵の向こう側へ送り渡したような気でいたのですが、いざ自分がそうなってみると、老、という文字に釈然としないのです。まだまた若いぞというありきたりの意味ではなくて、こんな未熟な人間のままで老齢者の仲間入りをするとは、なんて恥ずかしいんだろう、という感覚です。柵の向こうでやっていけるだけの自信がありません。

しかし還暦という言い方はうまいもんだと思います。十干十二支(干支)60年という長いトラックをようやく一周走り終えます。だから走り方を変えるなら二周目に入る今なんだろうな、そういう決断をする頃合いなのかもしれない、という思いに苛まれているこの頃です。(弥)
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