倶樂部余話【398】ドキュメンタリーのことなど(2021年12月1日)


 前話での予言どおり、先週の3日間はビートルズGet Back に浸かり切りました。
50年前のものとは思えないクリアな映像と音楽、延べ8時間弱、初めて知ることに驚きと感動の連続で、生きててよかった、と、大げさではなく、ほんとにそう思いました。

 その興奮冷めやらぬ日の朝、新聞広告で雑誌ブルータスがまさにこのget backを表紙にしてドキュメンタリーの特集を組んだと知り、早速購入。そうか、自分はドキュメンタリーとかノンフィクションとか、そういうものが好きなんだと改めて実感した次第です。

 そのブルータスでも少し触れられていますが、ドキュメンタリーの始祖と呼ばれるのが、アメリカのロバート・フラハティ監督(1884-1951)。その代表作こそ映画「アラン(原題はMan of Aran)」(1934)で、2年間で6万メートルのフィルム、と時間と費用をふんだんにかけて撮られたこの作品は、アラン諸島の人々の厳しい環境での日常を淡々と映し出し、異例の大ヒットを博します。アイルランドの西の端にアラン島というものすごい秘境がある、と、知られることになったのはこの映画のおかげです。今でも島のビジターセンターではこの映画は常に上映されていて、島の人達はこの映画を誇らしげに「ザ・フィルム」と呼んでいます。アランセーターが欧米に普及するのにこの映画の知名度が役立つたことは言うまでもありません。あの神秘の島から来たセーター、そう思われたのです。このフィルムとアランセーターの関係については自分の本にもかなり詳しく書きました。

 最新の話題作ビートルズと最古の名作アラン、またしてもこの2つがドキュメンタリーという言葉で繋がりました。そして日本で長年にわたりドキュメンタリー映画祭を開催しているのが山形なんです。はい、山形ともまた繋がりました。

 その山形で作ったモーリン・愛のアランセーター、発売以来好調な滑り出しのようで一安心してます。そのセーターに付属される小冊子のために書き下ろした私の原稿「モーリンに捧ぐ」がwebでも読めるようになりましたので、ここにリンクを張っておきます。読んでください。

 アラン、ガンジー、シェトランド、フェアアイル(フェア島=シェトランド諸島の島のひとつ)、どれもセーターで知られる島の名前ですが、ここへ来て、なんだかシェトランドとフェアアイルが、やきもちを焼いているような気がしてきました。ガンジーやアランばかりを取り上げて俺たちのことを忘れてないかい、と。そんなことないよ、納品が遅いからだけなんだよ。

 ということで、遅れていたセーターが到着です。フェアアイルは、異なるパターン(柄の組み合わせ)が無限に続くインフィニティと名付けた、よそのどこも(多分)目をつけていない当店独自の発注品、シェトランドは、従来からの純正シェトランド種の産毛を使いますが、厚さも色も今までとは異なる新ネタを仕込みました。どちらもほかでは入手困難な自信作。忘れてなんかいないからね。(弥)