倶樂部余話【一七七】前倒し、後ろ倒し(二〇〇三年八月二二日)


こんなに寒い終戦記念日は初めてでした。今年の記録的な長雨と冷夏は、方々に大打撃を与えているようです。もっとも、当店に限ってはむしろ夏場までスーツやジャケットの需要が途切れず、まんざらでもなかったのですが。

夏がダメならいっそ、ということか、今年はどこも秋物の立上がりが早いようです。七月からウールのコートや厚手のセーターがウィンドウに並んでいる店もあります。いわゆる前倒しですが、これも度が過ぎると滑稽ですらあり、 早く見せればそれだけ飽き(客も店も)も早い、というオチが分かっているだけに、気の毒にさえなります。

他の店で買われる前に早く売ってしまいたい、というのが前倒しに傾いていく店側の思惑でしょうが、逆にお客様の方は、慌てることなく全部見てから決めたい、という心理を年々強くしています。つまり、皮肉なことに、買う側は後ろ倒しになってきているのです。

で、私たちはと言えば、この秋もいつも通り、ゆっくりと順序良く品揃えを進めるつもりです。婦人は実需期の二ヶ月前までに、紳士は一ヶ月前までに、を原則に、「時期が来ればちゃんと揃っている」ように首尾よく整えますので、どうぞご安心下さい。