倶樂部余話【一一五】うろたえない(一九九九年一月一二日)


新年おめでとうございます。

一年前の当報で、私は「追い風は早く進むが舵が不安定になる。むしろ向かい風の方が進みは遅くとも安定した舵が取れるものだ」と自らを鼓舞しました。実際、想像以上の向かい風でした。昨対比3%贈にて年間目標もかろうじて1%上回ることができ、ベイスターズ優勝という神風にも乗り、大厄の一年を何とか満足に無事終えることができました。

年頭に際し改めたことがひとつ。「最近どう?」「良くないね」の日常会話をやめました。謙遜は美徳なりとばかり、日本中の街角でなされる何千何万のこの会話は、現状あんまりいい効果がないと思いまして。翻って、米国の好調には、彼らの楽天的国民性が少なからず寄与しているはずだと感じます。

さて九九年。二千年紀最後の年です。誰しもお正月は純真で無垢な気分に浸るものですが、次は千年分のお正月です。新時代を迎えるには千年分のまっさらな状態に向かっていきたいと願います。だから今年のキーワードは「リセット・トゥ・バージン」です。惰性的な過去の経験を「ご破算で願いましては」とリセットして、何にも染まっていないバージンな心持ちで、新しい変化を柔軟に受け入れたいと感じます。

誰もが初めて経験する世紀末ですから、じたばたしたくなるのかもしれませんが、こういう混沌の時代に恐らく一番どっしりと静観するのが英国(イングランド)ではないでしょうか。ユーロへの参加を見送ったのも英国らしい判断です。英国紳士たるもの、狼狽は泥酔並みの失態なり、で、この「うろたえない」という国民性は、ときに我が強いとか日和見とか言われても、私は数ある英国気質の中でも最も尊敬できる気質だと感じています。きっと歴史が育んできた処世術なのでしょう。自分も含めて、どうも社会全体がうろたえがちになっているようで、ここは英国を範に自らを戒めたいと思います。

その英国の経済学者曰く「好景気の唯一の原因は不景気である」どうか本年もよろしくお付き合い下さいませ。