【倶樂部余話】 No.212 「何も考えていない客」とは (2006.9.3)


 全国紙に全面広告を出すような著名ブランドと当店が扱うようなブランド、どんな違いがあるのでしょうか。
 確かに、イタリアのインコテックスのパンツ工場やスコットランドのウィリアム・ロッキーのニット工場では、聞けば誰でも知っているような有名ブランドの製品をも作っていますし、ネクタイのドレイク氏やドゥエ・ビランチェの多田氏は大手アパレルの仕事も手伝っています。だから、我々のブランドの方がはるかに生産者との距離が近い、と言えますが、違いはもちろんそれだけではありません。
 私は、あちこちのメゾンブランドの外国人経営者が常々口にしている「日本の客は世界のどこよりもモノの良さが分かり目が肥えていて評価の厳しい、最高に素晴らしい客」といったようなコメントを「そりゃリップサービスでしょ」と感じていましたが、私のその印象が間違いなかったことが分かりました。あるシンクタンクが「有名ブランドを買っている人はどういう考えでそれを買うのか」という深層心理を調査したのです。(「第三の消費スタイル/日本人独自の"利便性消費"を解くマーケティング戦略」野村総合研究所) そこで、案の定というか、仰天な結果が出たのです。『何も考えていない客ばかり』と。
 つまり「みんなが持ってて安心」「品質さえ良ければあとは大してこだわらない」「悩んで回るのは面倒くさい」という利便性を重視したコンビニ的な消費性向が強く現れていて、従来ならブランド消費に付きものの「そのブランドがどこよりも大好きだから」「そのデザイナーの生き様に憧れて」といった付加価値に重きを置く思考はわりに少なかったのでした。
 批判を恐れず極論するならば、ビッグな著名ブランドになればなるほど何も考えていない客に支えられている、という構図となり、ブランドイメージを訴えるだけの一面広告が多いのもそりゃ道理だわぃ、と、私は溜飲を下げたのでした。
 私どもの店で「面倒くさいからコレでいいよ」という動機のお客様はまず存在しませんから、冒頭の違いはこのあたりの思い入れ具合の差にあるように思えるのです。(弥)