【倶樂部余話】 No.245 ベルトの話 (2009.6.1)


 六月から新たに東京のベルト屋さんと付き合うことになりました。社内に熟練の彫金師を擁し、バックルにも革にも独自の技と気概が込められている、ほとんどハンドメイドの、ちょっとユニークなベルトで、東京柳橋の小さな工房で作られます。
 ベルトというのは、革製品の中でも靴や鞄よりも控えめな存在ですが、実は最もぜいたくな革取りを必要とされます。長さ約百㎝の細長い帯状の形態を、伸びたり曲がったりしないように真横の向きで、キズのある箇所を避けながら、しかも着用時は両端が重なりますから、うんと離れている両端の革の見栄えが全く同じでなくてはならず、と考えると、原皮の中でも一番おいしい部分をスコンと抜いて持っていってしまうのがベルトなのです。
 さらに、ベルトは、体のど真ん中の目立つ場所にいるにもかかわらず、でも目立ちすぎてはいけない。常にスラックスのお供扱いで、しかも靴や鞄とも色合わせなどで仲良くしなければいけません。ベルトレスやサスペンダーという手もあるので、ドレスコードとして必ず付けなければいけないというものでもない、という微妙なポジションにあります。
 六月は当店で一番ベルトが売れる月。上着を脱ぐ機会も増えて「そろそろ買い替えようかな」という気が起きるのでしょうね。この夏はいつもよりも少しベルトを気にしてみてはいかがでしょう。(弥)