倶樂部余話【413】目からウロコのバリアフリー(2023年3月1日)


 首都圏などのJRや私鉄の鉄道各社はこの春からバリアフリー料金として運賃に10円を加算して、ホームドアやエレベーター設置などの設備投資の財源にするのだそうです。この料金は認可制の鉄道運賃とは違って各社の申請だけで設定できる料金なので、簡単に値上げができるので、ていのいい口実なのではないか、との批判があるようです。そもそもホームに人が落ちるのは圧倒的に酔っ払いで、体調不良と歩きスマホがそれに続く原因、ということは、ホームドアがバリアフリー対策、ということ自体、なんかおかしいなぁ、と感じます。そう思うのには、私には、バリアフリー、と聞くと、必ず思い出す小さな経験があるからでしょう。

 2002年、ということは今から21年も前、バリアフリーという言葉がまだまだ目新しかった頃のこと、デンマーク・コペンハーゲン空港での長い乗り継ぎ時間の合間に、できたばかりのオーレスン橋で国境の海峡を渡って対岸のスウェーデン・マルメの街歩きをしようと計画しました。
 空港から列車で30分ほどで到着したマルメ駅はヨの字をした頭端式の駅舎で、自動改札機がズラリ並んでいました。そこで見た光景が忘れられません。すべての改札機が車椅子の通れる広い幅なんです。日本みたいに、車椅子マークの付いた改札機が端っこに一つだけあるんじゃなくて、全部がおんなじ幅広。普通に歩く人もベビーカーの人もキャリーケースを引っ張る人も車椅子の人も、みんな同じ改札機。差別や障壁など何もない、そうかこれがバリアフリーってことなんだ、と、目からウロコでした。
 そのことに感動した私はそれからの2時間ほどの街歩きの間、バリアフリーということを意識し続けました。バスや列車の扉も車内の通路もどれも充分な広さがある。当然ながら車椅子マークみたいなものはどこにも見当たりません。トイレもそう。どの個室もすべて車椅子で入れるだけの広いものばかりなんです。ただ便座の位置がとても高くて足が付かないので、踏ん張れずに閉口しましたし、男子小用器も位置が高くて背伸びしても届かず、子供用を使うという屈辱的思いをしました。あ、これは余談ですが、もうその当時から、ハエの標的がプリントされていて、これはグッドアイデアだと感心しました。

 つまり、バリアフリーっていうのは、特に何かを作ったりやったりするんじゃなくて、
どんな人も難なく使えるように最初からそれをスタンダードとして設計しておく、特別に後からお金を使って付け足せばいいってもんじゃない、という思想がスウェーデンという国には昔から根付いているんだろうな、と、気付いたのです。(後から、そういう設計のことをユニバーサルデザインと呼ぶということを知りました)

 バリアフリーを充実させるにはもっともっとお金がかかるんです、だからそのために都市部の利用者に限ってお金を集めるために運賃とは別の値上げをするんです、という理屈、なんだか屁理屈にしか聞こえないんだけど、と、思ってしまうのは、こんな経験を持つ私だからなんでしょうか。(弥)