この16年来スーツの制作をお願いしているA社が一日かけて体型補正セミナーをやるというので、金曜日に臨時休業をして、豊橋まで行ってきました。生徒は20名ぐらいでしょうか、東北や九州からも、女性を含めて、注文服店だけでなく、専門学校、リフォーム専門店など、テイラーフィッティングを学びたい熱心な方々ばかりでいささか圧倒されました。そしてもしかしたら自分が最年長だったかもしれません。
テーラーの業界にも足を踏み入れて30数年、今更そういうセミナーに参加する必要があるの?、野沢さんのフィッティングは最高だよ、と、おかげさまで全幅の信頼をおいていただける顧客もいないわけではないですが、私自身は専門の学校に通ったこともないし工房やファクトリーに修行に出たこともない、すべて我流、独学でやってきただけです。またパターンオーダーという段階にとどめてその上のレベル(仮縫い付きやいわゆるビスポーク)にまで進めないのはその知識と技術を持ち合わせていないからです。だから体型補正も今まで見様見真似でこなしてきましたが、このように一日かけて専任担当者に型紙のレベルから集中講義を受けるのは実は初めての機会なのでした。
さて、その内容ですが、十数年も解釈を全く勘違いしていた補正があったりして幾度か冷や汗が出ましたが、まあ概ね自分のやってきた体型補正がそれほど間違ってないことが分かり、ひと安心です。それと場数だけはそれなりに踏んでいるというのはやっぱり大きいです、いろいろ失敗もやってきましたけど、多分今までに2,000人以上の男性の体格を見てきてます。身長、胸囲、ウエスト、反屈伸、怒肩撫肩ぐらいはほとんど目測で当てられる自信はあります。さらに長い経験から感じているのは、いいファクトリーであればあるほど体型補正はそれほど必要にならない、逆に言うとダメな工場はどんなに補正しても(たとえ見かけは直せたとしても)着心地が良くなるわけではない、という、ある意味身も蓋もない結論です。いい仕立ては百難隠す、のです。
それから、こんなセミナーを受けておいて言うのもおかしな話ですが、体型補正はフィッテングの全てではなくて、フィッティングの一部に過ぎない、ということです。大切なのは、その顧客がどういうスーツを求めているかを数値に落とし込むことなんです。今どきの例で言いますと、当店の場合、ぴしっとかっこよく決めたパシパシ緊張感のあふれるスーツ、じゃなくて、もうちょっとリラックス感とキャリアを感じられるクラシックでゆとりあるスーツ、というご要望が多いので、その心情を数字に表してオーダーシートに記入することが求められます。これは、客層にもよるし、どこまでトレンドに沿うのか、ある程度場数も必要ですし、顧客とのコミュニケーション能力と多少の演技力、も求められます。つまりフィッターのさじ加減、ですね。
考えてみるとスーツというのは不思議なアイテムです。スーツほど体型補正にうるさいアイテムは他にないです。シャツや靴の比ではない。サイズや体型補正だけでなく、シルエットやディテール、やれ三つボタンだスラントチェンジポケットだとか、フックベントだ、本切羽だ、内ポケットの仕様や裏地の色柄、それだけパーソナライズ、つまりその人だけの一着、が求められるのがスーツなのです。
この、その人だけ、という要素は、その動機にも言えます。スーツが欲しいな、と思うその動機がこれまた人それぞれです。多いのは、昇進・異動・転勤・転職など職場環境の変化や成人・卒業・就職・結婚・葬祭・誕生日、などアニバーサリー、のふたつ。つまり自らを鼓舞する、自分にガンバレ、をしたくなったときに欲しくなるのがスーツなんだと思います。だから、動機になるその時期も人それぞれでして、当店がスーツを店のメインの商品としていながら、シャツや靴を作ろう、とかセーターやダウンの予約会などたくさんのイベント提案をしていながら、スーツを作ろう、というイベントを滅多にやらないのは、そういう理由によります。
でも、なんです。ここからが今回の本音の主題。昨年同様に8月だけは、スーツを作ろう!!の15%キャペーン割引をします。理由は、ノープラン、つまり策が尽きてしまい、8月の売上が取れない、9月になれば秋冬物が入ってくるのでなんとかなるのですが、その前に干上がってしまわないためのこちら側の都合です。スーツをほしい時期は人それぞれ、それは重々承知の上で、もしその予定がわかっているのなら、8月に作ってもらえませんか、こちらの都合で申し訳ありませんが、15%引きますので、というのが、年に一度のスーツを作ろう!!~ノープラン割引です。特におすすめしているインポートの「バラケ生地」秋冬物のカードサンプルがお盆明けに公開できますので、8月の後半から集中して実施します。
セミナーの感想文かと思った人、すいません。販促なんです。倶樂部余話にはそういう使命もあるのでご容赦を。(弥)