倶樂部余話【一二九】ロンドンの専門店(二〇〇〇年二月七日)


無事欧州より帰国しました。徹底取材のアラン島紀行はいずれ大作にまとめるつもりですので、今回はたった四時間だけ滞在のロンドン巡りについて。

目指すは二軒の専門店。まずは筆記具の「ペンフレンド」。世界一のビジネス街シティのど真ん中、しかもBBCのビルの中に位置するだけに、ダークスーツのエグゼクティブたちが入れ替わり立ち替わり来店している。でもほとんどの客が修理の依頼で、それもそのはず、この店はもともと万年筆の修理で名を馳せた工房なのだ。その経歴から集めたビンテージ・ペンのコレクションは素晴らしく、私は幻の英国製万年筆コンウェイ・スチュワートの1940年代製二種を購入した。

地下鉄を乗り継いで急ぐはナイツブリッヂ。ハロッズの裏手、眼鏡枠の「アーサー・モリス」。北アイルランド・ベルファスト出身の初代から三代に亘り、英国内でアンティークの眼鏡フレームの収集を続け、その膨大なストックの中から少しずつリストアしながら販売している。昨年創業三代目が急死したが、勤続二十年近い女性が権利を買い取り、営業を続けている。山のような在庫から迷うことしばし、都合五本を選び出した。

どちらも観光ガイドにも載らない小さな店だが、世界中の客がやってくる唯一無二の店。やはり真の専門店での買い物は楽しい。

新名物テムズ川の大観覧車をかいま見る暇もなく、ヒースロー空港へ直行。我が搭乗機は私の到着を待っていたかのように直ちに離陸した。

 

※このころ、品揃えの幅を拡げようと、筆記具や眼鏡枠など、男の持ち物を中心にいろいろと候補にしていた。