倶樂部余話【一五一】アランセーターの誕生秘話(二〇〇一年一〇月五日)


「アランセーターは、アイルランドのアラン島で、六世紀の昔から編まれている白いフィッシャーマンセーターで、編み柄には 祈りを込めた意味があり、その組み合せは家々によって家紋のように異なったため、それで溺死者の身元が判別できた。」これが従来言われている「アランセーター伝説」です。が、私の研究調査によって分かった真実はこうでした。

今から百年程前の19世紀末、政府はアラン諸島に漁業振興政策を施し、島には多くのスコットランド人漁師の家族が出入りしました。島の女たちは、彼らが着ていたガンジーセーターの編み方を教わり、更に独特の美的感覚から、その模様編みは次第に装飾を増していきました。

同じ頃、島からボストンに出稼ぎに行った一人の女性が、どういう理由か島に戻ってきます。彼女は編み物の天才で、ボストンで見た様々なセーターの編み柄を全て習得していました。島の女たちは、彼女からも貪欲に編み物を教わりました。

普段編むのは紺色でしたが、教会の元服式に際し、母親は息子のために飛びっ切りの白いセーターを編んだのでした。ここに白いアランが誕生したのです。

一九三五年、ある民俗品収集家が島にやってきて白いアランを見つけ、ダブリンの自らの店に置きます。翌年、その店を訪れた英国の服飾評論家がこれを発見し、英国服飾業界に大きく紹介しました。「アラン島では豪華な模様入りの白いセーターが昔々から編まれています。」と。

そして、戦後、アランセーターは米国で大ブレークするのですが、その話はいずれまた。もしくは店頭で。