【倶樂部余話】 No.204(2006.1.1) 追い風に注意


 謹んで新年のお慶びを申し上げます。
 「追い風は早く進むが舵がふらつき不安定になる。むしろ向かい風の方が歩みは遅くとも安定した舵が取れるものだ」と、向かい風の時代に自らを鼓舞するつもりで当報に書いたのは八年前のことでした。
 そして、ようやく昨年あたりから風向きは確実に変わって、どうやらメンズ服飾業界には追い風が吹き始めたようです。その風を享受できるこのときまで淘汰を受けることなく生き残れたことはとても嬉しく感じていますが、そう手放しに喜んでばかりもいられないことでしょう。
 まず、追い風市場には参入者が群がりますから、競争は激しくなるはずです。が、うちの店、他と競い合うようなスタイルの商売は決して得手とは言えないのです。「うちはうち、人の店のことには口を挟まないから、その代わり、うちの店のこともとやかく言わないで」という姿勢をどこまで貫くことができるでしょうか。それから、追い風になると客層が拡大し、店に対する期待度がより高くなってくるので、その期待を失望させないだけの多様な品揃えが必要になりますが、ここで軸がぶれないようにしっかりと舵取りをしなければなりません。
 何よりも、追い風の時に留意すべきは、慢心でしょう。風のおかげを自分の力量と勘違いしてしまう過信です。そして「これでいいんだ」と納得してしまうと、常に新しい商品を探し続ける姿勢も怠慢になりがちとなるので、これにも要注意です。
 おごらず謙虚に、しかし攻めることを忘れずに、この追い風を自らの帆いっぱいに受け入れて進みたいと思います。
 本年もどうぞごひいきにお願いいたします。(弥)