倶樂部余話【十八】その名のとおり背広屋なのですが…(一九九〇年三月十三日)


セヴィルロウは背広の語源。だから、当店のメインも背広です。実際の売上バランスも、スーツ・ジャケット五十%、フォーマル十%、常設在庫二十五%、イベント・法人需要十%となっています。

「背広屋のわりに背広があまり置いてないじゃないか」という声があります。これは、お客様の好みをオプションして二週間で仕上げる、受注生産方式を採っており、ディスプレー兼サイズゲージとしてシーズン毎の提案を現品展示する以外は、すべて生地サンプルからお選びいただくという形になっているためです。百戦錬磨のビジネスマンの武器としてのスーツですから、数万円を衝動買いされる方は稀で、一時間でも二時間でもかけてじっくりとお考えいただく筋のものだと思います。一着目は不安も手伝って多少時間はかかりますが、二着目からはこの形の方がずっと楽に品選びができるはずです。

「背広屋ならば、イベントなどやらずに、背広を売り込むことに専念してはどうか」という声もあります。確かにその方が楽な商売でしょう。しかし、背広はお求めになる事情も好みも職業からの制約も、人それぞれでいろいろと違います。背広こそは、こちらからあまり押し付けずに、お客様が主体的に購入を決心すべきものだと考えます。しかも、背広ばかり売っていたのでは、年にせいぜい二、三回のご来店しかいただけないでしょうし、それではお客様とのコミュニケーションなどあったものではありません。もっと気軽に、それこそ「倶樂部」のように、月に一回、年に十回以上、足をお運びいただけたら…。毎月のイベントはその促進剤でもあると考えています。

で、前置きが長くなりましたが、この半年間のイベント・スケジュールをお知らせします。

 (後略)

 

 

※ふつう店の催事というと売上増強を目指して実施するのが常のようですが、当店のミニイベントは、来店の呼び水という意味合いの方が強く、売上は全くと言っていいほど当てにしていませんでした。

 

この月は、靴を全品番約百足並べて見せる、ということをやっています。新しくできた靴屋だと勘違いした方もいました。