倶樂部余話【334】英EU離脱(2016年8月1日)


 「英EU離脱」。まさかの事態に、これほどに英国が話題になることもかつてなく、こうなると私もここに何らかの感想を書かないといかんかな、と感じています。
 偉そうなことは言えませんが、恐らく外交では、お得意ののらりくらり作戦で、今後も独や仏を翻弄し、時にはお家芸の二枚舌戦略も繰り出して、結局のところカタチは離脱するもその実はなるべく現状維持の「いいとこ取り」を目論むことになるのでしょう。
 英政府の交渉相手はEU諸国という外向きだけではありません。ご存じのように、英国は、支配するアングロサクソンのイングランドと、支配されるケルト系のスコットランド、ウェールズ、北アイルランド、この四つの連合王国ですが、今回のイングランドの失態からこの連合のたががガタガタに緩んでいて、内政的交渉も大変です。先日(7/22)も、ウェールズにスコットランド、北アイルランド、そしてアイルランドの首脳が集まり、団結して英政府に働きかけようという方針で一致しました。私には外交よりもこちらの方が興味があります。
 当の英国自身を含めて喜んでいる人が誰もいないのではないかとも思える英EU離脱。その中で、ひょっとしたらこりゃチャンスかも、とちょっと微笑んでいるのが八十年前の世界恐慌のさ中に英国から独立を果たしたアイルランドです。これでEU諸国の中でただ一つの英語の国になり、しかも通貨はすでにユーロ、島国にして英国との国境を持つ(だからシェンゲン協定には非加盟)、というのは、英国の避難港として捉えるには確かに好条件です。実際、移動の自由を求めてアイルランドのパスポートを二重申請するアイルランド系英国人は後を絶たないようですし、何しろ、悲願である北アイルランド併合の好機が思いがけずやってきたのです。あわよくばスコットランドとも連合する可能性もなくはない。英独仏の困惑を尻目に、一番利益を享受するのはアイルランドかもしれません。 (弥)