倶樂部余話【九十二】アムステルダムの休息(一九九七年二月八日)


「滑走路凍結のため二日間の足止め」と知ったのはダブリン空港でアムステルダムへの乗り継ぎ便に搭乗するわずか十分前のことでした。

とりあえずの緊急対処を講じた後、私はすっかり落ち込みました。多分ワーカホリックの典型的症状なのでしょう。一人異国で二日間の拘留。これは働き過ぎにバチが当たったのだと神すら恨みました。それほどにぽっかり空いた休息、というのが私にとって縁遠いものだったのです。

乗り継ぎするだけのつもりでなんの予備知識もないアムステルダムの街をあてもなく散歩。繁華街から住宅街へ入り込んだあたりで、塞ぎ込んだ仕事人は徐々に旅人になっていきました。凍て付く運河、マッチ箱のような傾いた石の家々、生鮮品の並ぶ広場のマーケット…。十七世紀と何ら変わらない絵のような風景の中に、ヨーロッパ独特の歴史の深さ、文化の貴さ、生活の厚みなどが心に染み入るように感じられたのです。

ようやく私はこの休息を楽しめる気持ちにななりました。きっと体をこわす前に神が与えてくれた恵みだったのだと、私を旅人にしてくれたアムステルダムの街に感謝しています。

災い転じて福と成すのお話。