【倶樂部余話】 No.281 英国は深い (2012.03.30)


 映画「The Iron Lady マーガレット・サッチャー」を観ながら、一月にロンドンへ行ったときのことを思い出していました。
 何度目かのロンドンですが、実はまともに観光というものをしたことがなく、今回初めてバッキンガム宮殿の衛兵交代を見学する機会を得ました。冬の平日だというのにもかかわらず集まった数百名の見物客に混じって、一時間強のその儀式を楽しみました。さながらディズニーランドのパレードの様ですが、何しろこっちは恐らく何百年ずっと変わっていないであろう本物の儀式ですからね、素晴らしい観光資源です。で、思ったのです。「英国王室ってすごいよ、王室がこの国に寄与しているウェイトのなんと大きなことだろう。日本の皇室だってもっと国の資源として有形無形に活用することができただろうに。単純に『皇室っていいよなぁ』って、政治や宗教やイデオロギーとは全く無関係に、そう思っても良かったのに、戦後ずっとそう言えなかったことは、日本にとって不幸なことだったなぁ」と。
 名所や空港などあちこちのお土産コーナーにたくさん置かれていたのが、エリザベス女王の在位六十周年(Queen’s Diamond Jubilee)を記念したグッズの数々。女王陛下の顔写真が大きくプリントされたショッピングバッグなんて使って恥ずかしくないんだろうか、と思いましたが、考えてみれば英国のお札やコインにはみんな彼女の肖像画が描かれてるんだから、きっともう愛すべき国民的キャラクターになってしまっているのでしょうね、エリザベスは。これも日本の皇室ではありえない違いでしょう。
 六月初めにはこの女王在位六十周年を祝う式典が盛大に執り行われるようで、パレードあり船舶ショーありコンサートあり(ポール・マッカートニーは十年振りにまた御前でハー・マジェスティを歌うのだろうか)、と今からとても楽しみな四日間です。天皇陛下はとりわけこの式典への参加を切望されているそうで、実現すれば六十年前の戴冠式にも臨席した経験を持つ数少ない賓客となります。
 そしていよいよ七月二七日からはロンドン五輪が始まります。古いモノの中に違和感なく整然と新しいモノを取り込む、というロンドンらしさをオリンピックでもきっと遺憾なく見せてくれることでしょう。
 うーん、やっぱり英国は深いな。(弥)