倶樂部余話【十六】REDUCTIONって何だ!?(一九九〇年一月十日)


新年おめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

さて、昨秋予告しました通り、この度開店三年目にして初の「リダクション」を開催いたします。

「リダクション(=reduction)」。(図面や軍備の)縮小、削減、という意味もありますが、ここでは「割引」と訳して下さい。主に英国の高級専門店で使われている言葉です。

当店がバーゲンとかセールとか称さずに、あえて馴染みの薄いリダクションという言い方をするのには、当然それなりに理由があるからなのです。

何でリダクションなんかするのか、と憤りの方もおられるかも知れませんが、お客様に支持され喜んでいただける店であるためには、まずその店を「繁盛させる」ということが店側の最低の責任ではないかと思うのです。「繁盛させる」ことから生まれる効用が顧客サービスに与える好影響は計り知れないものがあると考えます。

但し、顧客を裏切るような苦しまぎれのディスカウントであってはなりません。店にとって最も大切なお客様は、決してバーゲンハンターの一見客ではなく、心から店を愛して下さるファン客の皆様なのですから。

幸い、当店も多くの素晴らしいお客様に恵まれ、この二年余で店の信用も徐々についてきたと判断し、初のリダクションに踏み切った次第です。

そこで、リダクションのルールを次のように決めました。

①最大の特徴として、リダクション一ヶ月以内にお買い求めの品と同じもの(同色同サイズ)がリダクションになっていたときには、その差額の半分を返金いたします。

②リダクション実施前の予約取り置き品に関しては対象外とします。つまりリダクションを見越したお取り置きはできませんので、確実に正価で買っておくか、リダクションまで売れないことを祈るかは、一種のギャンブルです。

③必ず顧客限定期間を一般公開の前に設けます。そのご案内は過去一年間に正価でお買い上げのあった方に限って発送いたします。

④来ていただきたい方には③のようにご案内が届きますので、マスコミを含め一般の方からの、電話等による期日などのお問い合わせにはお答えいたしません。

⑤リダクション価格は同じ型でも、色・サイズによって異なることがあります。

⑥リダクション商品の工料は、実費ご負担いただきます。

⑦通常スーツ等にお付けしているハンガーやカバーもリダクションの際にはご勘弁願いします。

⑧いつものことながら、混雑時の応対は「先客優先」を原則とします。ただし、ご来店時刻の予約を事前にいただいている場合にはその限りではありません。

ともかくも初めてのことで、いろいろと反省点も出るでしょうが、ほとんどの冬物商品がリダクションの対象となりますので、何卒ご来店の程お願い申し上げます。

 

※在庫処分の値下げ販売はこの業界では避けて通れない宿命です。この仕事に就いて以来、いつもシーズン末期になると、そのことと通常時の商売との整合性を摺り合わせるのに腐心していました。そのひとつの結論がこの「リダクションのルール」でした。そして、その基本姿勢は、時を経ても、変わりなく現在に至っています。

 

 なお、①については、ほとんどが一点モノの仕入のため、該当するケースが滅多になかったので、その後謳うのをやめました。また、⑥⑦は、値段を下げるのは店の都合、客のせいじゃない、という観点から、取り止めました。