【倶樂部余話】 No.313 北海油田に屈しました(2014.11.1)


 朝ドラ「マッサン」が目標にするスコッチウィスキー。それは、原料、製法、風土、どれもが代わりのきかないスコットランド独特のモノです。我々の世界で代わりのきかないスコットランド物といえばその一つにシェットランド島で編まれるエベレストのセーターが挙げられます。ピュアシェットランドシープの柔らかな産毛、縫い目のない独特な細身の丸胴編み、1953年のエベレスト初登頂に用いられたことからその名が付いて以来70年、ずっと変わらずに作り続けられていた無地のセーターです。
 そのエベレストからもう生産ができないとの連絡が入りました。昨冬に第303話で触れたとおり、原因は北海油田。編み立てのできる熟練のおばちゃんたちを油田関係の仕事に取られてしまいました。現オーナーのノーマンとイブリンのリースク夫妻には私はダブリンで何度か会ったことがあり「そりゃ売れる時もありゃ売れない時もあったさ。同じものを70年も続けられたのは、小さな島ゆえに競争や淘汰から免れてこれたからだろう。幸運だよ」と語っていましたが、今回の事態は皮肉にも小さい島ゆえに起こった不幸です。日本からの多くの注文も宙に浮いたままでの休業で、決して売り上げ不振で閉めるわけではない、それが残念でなりません。
 今までも、そしてこれからも、世界のあちこちで様々な伝統的ロングセラーがこうして消えていくのでしょう。それにいちいち感傷的になっていてはやってはいけない、それはよく分かります。しかし今回はあまりに身近であったためちょっとショックなのでした。(弥)
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