倶樂部余話【一六四】靴をお休みします(二〇〇二年八月二六日)


かなり悩んだ末の苦渋の決断です。紳士靴の取扱いを当面の間お休みすることにしました。「えっ、どうして?」という声がすぐに聞こえてきそうですが・・・。

※まず、服ならば普通にできるフィッティングサービス(寸法直しなど)が、靴にはほとんどその余地がない、という靴特有の宿命的ジレンマです。どんなに気に入った靴だとしても、フィッティングが合わなければそれまでです。 「履いてるうちに伸びますよ。」などと無責任な嘘もつけません。結果、親身にお相手すればするほどに、「欲しいのに買えないなんて」とお帰りいただくケースが増え、喜ぶ顔を見たくて商売しているのに、悲しい思いをさせてしまうとは、と次第に自己矛盾を感じるようになってきました。仮に品揃えを数倍に増やせば、このジレンマは解消されるでしょうが、残念ながら、資金もスペースもままなりません。

※服は着てなんぼ、靴は履いてなんぼ、です。当店は、服バカのための服を扱いませんし、同様に、靴マニアのための靴も扱えません。しかし「A社とB社は買ったから次はC社が欲しい」といった渡り鳥的コレクターの来店が増えているのも事実です。一線を画すためには、ここらで一旦引き出しを閉めるもまた一策かと、いう気がし始めたのです。

※もちろん、永久停止ではなく、これという商品と売り方を探り当てるまでの休止です。また、取り寄せや修理は、引き続き承りますのし、婦人靴は変わらずに取扱いますのでご安心下さい。

私自身、靴好きで、知りたがり教えたがりの質ですから、靴談義は全く拒みません。ご相談も大歓迎です。

ご理解の上、倍旧のご愛顧をお願いします。


※オーダー靴という形で靴の展開を再開するのはこの二年後でした。余話【187】参照