倶樂部余話【352】店じゃない店(2018年2月7日)


新拠点での新体制を始めて一週間が経ちました。新しいお店はどこなの、と聞かれるたびに、いや今度は店じゃないんです、と答えていたのですが、何人かの方が不安そうに見えまして、そういうことか、と意を得たようでした。

25坪の店舗を一坪の事務所に凝縮する作業は時間も労力もお金も掛かる大仕事で、恐らく私以外には誰にもできない芸当だったでしょう。もちろん自分で決断したことですし、必要に迫られての作業でしたが、まさに必要は発明の母、マザー・オブ・インベンションですね、いろんな新しいアイデアも次々に湧きました。

でもウインドゥもボディも陳列棚もない、つまり「みせ」ることができない場所ですから、これを私は店とは呼びたくなかったのです。じゃあなんて言ったらいいの、無店舗とは違うんだし、とお客様はさらに困惑した顔をします。うーん、店は英語でshopか、shopには店舗という意味以外にも(職人やアーティストなどの)仕事場という意味(workshop)もあるし、ここは不本意だけど、目くじら立てず、便宜上やっぱり店と呼ぶことは避けられないことだろうなぁ、ということで、観念して、ショップという意味で店と呼ぶことにいたしましょう。はい。

ただこのショップ、実はまだ完成してはいないのです。まず営業日、店休日がまだ未確定なので、不定休という宙ぶらりん状態であります。これは、2月中には固められる予定です。そしてもう一つ、いわゆるリアルショップの方はなんとか恰好がつきましたが、ウェブショップのほうがまだ全く手付かずで今は依然アランセーターしかカタチになっていない状態です。リアルとウェブの2つのエンジンが揃ってのショップであるはずなんですが、片肺飛行でのスタートとなっています。おいおいウェブの方に掲載商品を増やして、チャントしたカタチに持っていかないといけません。

まあ、ともかくもお客様をお受けできる体裁は整いました。どんな感じなの、と様子を見に来ていただくだけでも、新しいショップに一度お越しください。(弥)
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倶樂部余話【351】最後のハガキ(2017年12月28日)


どうにも筆が進まずクリスマスを迎えてしまいました。現店舗からの撤退という大仕事にとても忙しいというのももちろんあるのですが、大きな理由は今話が最後のハガキ通信になるからです。

今はこの文章をWEB上で読んでくれる方も多いのでしょうが、元々は毎月発行するハガキ通信の冒頭雑話として書き始めたもので、開店2年目の年から29年間350回続けてきました。次号からはメールマガジンに切り替えるため、今号がハガキで送る最後となります。ただ届ける手段が変わるだけだよ、と簡単には片付けられないひとしおの思いが私の筆を遅らせるのでした。

ハガキ通信を始めたのは当時最も安価で効果的な販促手段だったからですが、最初のうちは低機能のワープロを駆使し文字数を数えてから段組みをしたりと、フリーペーパー的な体裁を整えることに随分と苦労しました。洋服屋のDMなのにこんなに文字ばかりびっしりのハガキに皆さん面食らったことでしょう。しかし結果的にはモノクロ印刷のハガキというのがよかったのでしょう、これがカラー刷りの封書だったらきっと長続きしなかったはずです。ハガキの持つ効能をだれよりも身に染みて知っているのは私自身に他なりません。

ですがノスタルジーだけで進化を拒むことはできません。商品紹介もWEBに頼っていこうとしている今後ですから、メールマガジンへの切り替えは必然です。思ったんです、ハガキ通信という言葉を英語にしたらメールマガジンじゃないですか。なんだ、私は29年前からメルマガをやってたんですよ。時代の先駆者です。

この数か月ハガキで呼び掛けてきました、ハガキをやめますからメールアドレスを送って下さい、と。それでも今日現在176名のアドレスが不明のままです。きっとその中には、ハガキを続けてくれ、という無言の抵抗を示している方もいるのではないでしょうか。だからあえてここで176名に最後のお願いです、メールを下さい。(弥)

以下、WEB版だけの続きです。

ハガキという手段は、静岡のこの店舗に頻度よくご来店いただける方へ、ということが暗黙の前提で、そうなると当然に、主に静岡県にお住まいの方ということを原則としてお出ししていました。メルマガに切り替える、ということは、その前提も取り払われることになります。世界中の(と言っても日本語のわかる方だけになりますが)方々に配信可能ですので、この機に広くメルマガ購読のご希望を受け付けることにいたします。
メルマガ配信希望の方はHPのフォームから件名に「メルマガ希望」と書いて、ご連絡ください。折り返しこちらから住所氏名などの個人情報の提供を求めるメールを差し上げますのでそれにご同意いただけた方を配信リストに加えます。(弥)

メルマガ希望はこちらから。

倶樂部余話【348】日本アイルランド外交樹立60周年(2017年10月1日)


日愛外交樹立60周年
当店にはいろんな顔がありますが、その一つがアイルランドのアランセーターであることは自他ともに認めるところでしょう。この国と関わる最初のきっかけはこの店の開店を秋に控えていた年の正月でしたからちょうど30年ということになります。そして今年は日本とアイルランドの外交樹立60周年だというのです。つまり1957年、偶然ですが私の生まれた年でして、はい、還暦です。

アイルランドが英国から分離独立をしたのは1922年ですから国交自体はそれ以前からあったようですが、それまでは英国大使館内で兼務していたものを互いの地に大使館を置くことになってから60年ということで、今年一年間は東京のアイルランド大使館とダブリンの日本大使館が一緒になって日愛両国で様々な記念行事が企画されています。急遽参加を決めた今月開催の浅草・ケルト市もその一つです。

さらにもう一つの偶然がありまして、今の駐愛日本大使が私の高校の隣のクラスの女性であったのです。我が母校は神奈川県でも屈指の進学校なので東大からキャリア官僚になる者も決して珍しくはないのですが、世界約200か国の中でよりによって私と一番近しい国の大使が同期生とは驚きました。高校生当時の面識はなくともそこは同窓、共通の友人を介してメールのやり取りが始まりました。

ということで私もなにか60周年記念を、と思うのですが、今からでは事業申請も間に合いませんので、勝手に考えてアランセーターの紹介強化をすることにいたしました。まずはアランセーターをご所望の方にはご希望に応じて、拙著(CD本)またはアランの古い映像のDVDを付録に付けましょう。リアクションの予想がつかないのでとりあえず10月限りとします。日愛外交樹立60周年未公認事業、題して、ファースト・アラン・コンタクト、始めます。(弥)

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アランセーターのサイトはこちらからリンクしています。
(俱樂部余話のサイトを離れます)

 

倶樂部余話【七十八】クリスマスの秘密(一九九五年一二月二四日)


こんなに嬉しい秘密を私だけのものにしておくのはもったいないので、お話ししてしまいます。

先日、以前からときどき顔を見せてくれる証券マンのY君が来店し、生涯の伴侶と心密かに決意しているY子さんへのクリスマスギフトを悩んでいました。しばしの思案の末、赤いケープに決め、「驚くだろうな」と喜々として帰っていきました。

その翌日、今度はY子さんがやってきました。彼女は前日のY君の行動を知りません。しかもY子さんもまた、プレゼントのことは彼には絶対に内緒にしておいて、と言います。Y君の好みとサイズは私がよく知っていますので、ドレスシャツとタイとベルトをひと箱にまとめました。ふたつの純情なハートに私も最大限の計らいをと思い、タイの色は前日のケープに合わせて赤に決めました。もちろんその理由は彼女には言えませんでしたが。

クリスマスイブの夜、私がお手伝いした二つのギフトが、彼らの愛の進展に寄与できることを祈るばかりです。メリー・クリスマス!

倶樂部余話【七十七】「傘がない」人のために(一九九五年一一月二六日)


一ヶ月前にパソコンを買いまして、パソコン通信や話題のインターネットへも接続が完了しました。

まだ始めたばかりで、そんなに大それたことが言えるほどではないのですが、それにしても世界中の様々な最新情報がいとも簡単に次々と目の前に出てくる様は、確かに感動に値します。遊び感覚で接続すると知らぬ間に二時間ぐらい、あっという間にすぎてしまいます。まさに情報の洪水の中を漂うわけですが、しかし冷静に考えると、そこに提供される情報の99%以上は自分にはほとんど必要のないものだということが分かります。

片や、毎日店に立っていると、お客様からは様々な情報提供を求められます。洋服の専門知識だけではなく、例えばこの十日間だけでも、「トンカツのうまい店はどこ?」(この類の飲食店の問い合わせはかなり多い)とか「呼吸器系のいいお医者様をご存知ないですか?」、さらに「結婚することになったのですが、相応しい教会をご紹介いただけますか?」、これなど人生の一大事のご相談です。これらは皆、ご本人にとって今一番欲しい情報なのですが、インターネットでは簡単に手に入れることはできません。

井上陽水の「傘がない」という古い詞をご存知でしょうか。♪行かなくちゃ…♪というアレです。我が国の将来を語る政治家のニュースなんかよりも、雨なのに傘がなくて恋人の家に行けないことの方が大問題だ、という内容です。

「情報」は「情」&「報」だという人がいます。インターネットは「報」で、うまいトンカツ屋は「情」だと言えます。雑誌は「報」ですが接客は「情」です。どんなに高度情報化社会になろうとも、独自の情報を提供し続けられる店でありたいと思います。「傘がない」お客様のために。

倶樂部余話【七十六】フライディ・ウェア(一九九五年一〇月二五日)


松江~山口・アイルランドフェアの長期ロードのため不在しまして、皆様には不便をお掛けし、あらためてお詫び申し上げます。と言いつつ、日常業務から開放されての二週間は、私自身ちょっとしたリフレッシュになったのも事実です。いい体験をさせていただきました。

ところで、今年の「いつまでも涼しくならない秋」を早くから予言していた方がおります。その根拠は「旧暦」。何でも今年は「うるう月」があり、八月が二回あるのだそうで、その分夏が長くなるという説明でした。しかしその「うるう八月」も一〇月二三日に終わり、いよいよ旧暦九月に入ったので、ここから急速に寒くなるだろう、とのことでした。ホッとひと安心しています。

さて近頃かまびすしいのが「フライディ・ウェア」。卒寿の老御大・石津謙介先生までがテレビCMに担ぎ出され、いささか業界も浮かれ過ぎかと思うほどの話題です。特別目新しいモノが出てきたわけではないのですが、大企業や官公庁までもが採用するに至って、今までのドレスコード(服装規定)の枠が徐々に打ち破られつつあることは好ましいことと思います。とりあえず、ブレザー&チノパンツのスタイルはフライディ定番のようですし、カジュアルな要素をオンウェアに取り込む着方がプラスの評価に働くのですから、お洒落を楽しむ意欲のある人にとっては嬉しいことです。

私が最も期待しているのは、レディスでは当たり前の、コーディネート感覚や着回し感覚が、これでようやくメンズの世界にも定着してくれるかな、ということです。これまで単品志向が強すぎたメンズウェアの復権の鍵はここにあると思っています。

着回しは倹約につながります。となれば範はやはり英国に有り。英国服の注目にはそんな理由もあるのではないでしょうか。(こじつけかな…)

倶樂部余話【七十五】アイドマAIDMAの分業化(一九九五年九月二十日)


戦後最大級の台風も通過して、いよいよ秋本番。これから十月に掛けてが一年で最も品揃えの充実した活気ある時期です。

先日ある地方情報紙に当店を取材した記事が第一面に大きく掲載され(断っておきますが当方の広告ではありません)、会う人ごとに随分と冷やかされています。パターンオーダーに手慣れていることやレディスも充実していることなどが伝わって、興味を持たれて来店される新しいお客様がかなり見受けられ、改めてメディアの力の大きさを思い知らされます。

販促理論に、アイドマAIDMAの法則というのがあります。これは、人が購買に至るまでの心理過程を分析し、
 
(attention)注目=あらっ、これいいじゃない!?
(imagination)想像=次の旅行に…、手持ちのあの服と…、
 
(desire)欲求=欲しいな!
 
(memory)記憶=素材は?価格は?サイズは?ブランドは?
 
(action)行動=コレください!
 
……という心の流れを言います。

店の飾り付け、陳列や接客会話などはこの流れがうまく進むように仕掛けていくのですが、このごろどうも「アイドマの分業化」が目立つようになってきました。「雑誌に載ってたコレください」というもので、AIDまでは在宅、MAからだけが店の分担、というパターンです。

雑誌の情報源が店の取材なのにもかかわらず、店の言うことよりも雑誌の記事の方に信頼を置く消費者が増えているわけで、私自身は多少の憤りを覚え、チト情けない気もしますが、地方と中央、口承とメディア、どう考えても情報電波力でかなうはずもなく、きっと私が怒ることのほうが間違いなのでしょう。

雑誌とは共存共栄、顧客の喜ぶことはやってみること、これが少し頭の柔らかくなった私の今の気持ちであります。

倶樂部余話【七十四】「倶樂部メンバーズ」スタートします(一九九五年八月七日)


 

別項【新部門「ケルティック・トレードセンター」設立の報告】

アランセーターは、数年来、店内でコツコツとご紹介し続け、すっかり当店の看板商品にまで成長いたしました。特にこの二年ほどは、新聞雑誌の取材も多く、全国からの注文も急増、また各地でのフェアなどへの出店要請も相次いできました。この不況下にありがたいばかりの話なのですが、「セヴィルロウ倶樂部」としての対応ではどうにもアップアップになってきました。

そこでこの四月、アランセーターなどの輸入販売業務を分離し、新部門「ケルティック目トレードセンター」を設立いたしました。タイミング良く、アイルランド側から、アランセーター取り扱いの日本総代理店になってくれないか、との要請も舞い込み、この十月には日本でのアランセーターをすべて管理把握する権限も与えられる計画で進んでいます。

お客様の皆様にとっては、何が変わったということではありませんが、皆様に育てていただいたアランセーターという枝葉が、何とかひとつの幹になりつつあるわけで、感謝の意を込めてご報告させていただきます。

倶樂部余話【七十三】バイヤー気分(一九九五年七月五日)


先日テレビ番組で当世の流行で「通販」と「オーダーメイド」を特集していました。番組では、手軽さと面倒さの両極として対比していましたが、この二つ、実は両極どころか同質のものではないかと思うのです。

どちらも目の前に現物はなく、欲しい物を注文書に記入して発注。しばらくして品物が届く。つまりこれはバイヤー(仕入れ担当者)のバイイング(買い付け)とまったく同じ手順であり、このバイヤー気分を味わえる喜びこそが人気の本質だと思うのです。当店の冬物予約方式が成功しているのも同じ理由だと言えるでしょう。

かつて服飾専門学生の志望はデザイナーばかりでしたが、近頃はバイヤー志望が急増しているそうです。私自身十年選手のバイヤーとして、感性と数字の狭間で試行錯誤の末、年間数千万円のオーダーを出します。リスクを負いながらもその知的なプロセスを存分に楽しんでいることは事実です。

バイヤー気分を味わえる店、というのも当店の特徴とは言えないでしょうか。

倶樂部余話【七十一】金曜日とビスポーク(一九九五年四月一八日)


オジサンたちの最近の関心は「カジュアル・フライデー」。帝人、伊藤忠などの通勤風景が新聞紙上を飾り、今後も実施企業は増えるようで、紳士服業界も需要拡大の好機と攻勢中です。自由な服装=自由な発想が目的のはずが、ジーンズやゴルフウェアはダメとか、具体例付き事前講習会などは、高校の服装規定のようで、いかにも日本的ですね。

人に見られるためのキチンとしたカジュアル、実際にはかなり高難度かと思いますが、男性が服装にもっと関心を払う契機となってくれることを期待してます。確かにいくつかコツはありますが、要は「習うより慣れろ」&「失敗は成功のもと」と、果敢に挑戦する気持ちが肝心でしょう。

片や、ヤングビジネスマンに今興味が高いのが「注文仕立ての背広」。だらだらソフトスーツのバブル的なかっこ悪さに気付き始めて、英国調の自分の身体にぴったり合った納得のいく一着への欲求が強くなっています。「セヴィルロウ」の地名が持つ意味もかなり知られてきましたし、「カスタム」とか「テーラー」そして「ビスポーク=bespoke/『話をして』の意から転じて『高級お誂え服』のこと(←→ready-made)」などの言葉が再び注目され始めています。

シニアがカジュアル、ヤングが注文服。従来と逆のこの流れは、これからの新しいカギではないかと感じています。