読後感想。中野香織「ロイヤルスタイル 英国王室ファッション史」。

中野香織「ロイヤルスタイル 英国王室ファッション史」
吉川弘文館 2019年 2,200円+税  ISBN978-4-642-08355-3
http://www.yoshikawa-k.co.jp/book/b454181.html

面白い…、面白い…、面白い…
200頁を一日で一気に読み終える間に、多分100回以上つぶやいていたと思います。
傍らの愚妻が呆れてこう言います。「学者さんの歴史の本でしょ。小説でもエッセイでもないのに、そういう類の本を『面白い…』と評していいの?」

でも、本当に面白かったんです。曲がりなりにも英国気質の洋服屋を名乗る店の店主を長年続けた私ですので、
英国の服飾に関しては普通の人よりは多少詳しいつもりですが、
それなのに恥ずかしいくらいに初耳の話ばかりで、
特に大衆レベルの、いわば三面記事的な分野においての王室メンバーたちの人となりがよくわかります。
おそらく一面二面よりも三面のジャンルのほうがリサーチは大変だと思うので、
膨大な量の資料の読み込みがこの裏にあったことは想像に難くありません。

中野さんの文章は以前からとても好きで、
これは2007年に日経新聞内の連載コラムで私のアランセーターの本に触れていただいたときもそうでしたが、
どの項でも各項のオチのところ、最後の5-10行の部分、この解釈がほんとに素晴らしい。
ここで笑わされたり涙したり、私はいつもやられてしまう。
学者のそれでもなく、ジャーナリストでもなく、服飾を社会とのつながりから歴史的に考察する、まさに「服飾史家」としての独自の見解は、
ときに優しくときに厳しく、また賛美と皮肉が交差しつつ、お見事と膝を叩いてしまったり、うーんと唸ってしまったり。

そうそう、忘れてました。3年前の拙稿「倶樂部余話」第335話「スーツ生誕350周年」も、中野さんがフェアファクスのサイトの中で書かれたものをまるっと転用させてもらったんでした。改めて感謝です。

英国に関心のある方、また服飾史に興味のある方には、必ず楽しんでもらえる一冊だと確信します。

ちょっとばかりの英国通を自認しながらも、
このところのブレグジット(英国のEU離脱)の体たらくで、英国に呆れ返っていた私ですが、
この本のお蔭で座標軸がまた少し好きの方に傾いてくれたみたいです。


こういう表紙です。
本を紹介するときには表紙を掲載せざるを得ませんが、
著者自らがFBで「やや無骨な見た目」と評しているように、
私もこの表紙が本の内容をちゃんと現しているようには思えず、いささか残念です。
重版時に変更になることを期待してます。