倶樂部余話【359】トルコ・ショック(2018年8月28日)
写真はトルコリラ。私のパスポートケースに入ったままのものです。
毎年一月のダブリン往復にたまたま五年前に乗ったのがターキッシュ・エアウェイズ。気に入って昨年まで四年続けて使いました。その四年目の昨年のこと、イスタンブール行きのエコノミークラスはほぼ満席、座席下の電源コンセントが見つからず難儀していたのを親切に助けてくれたのが通路を挟んで隣の席にいたトルコ人のK氏でした。愛知県を拠点に木材の貿易をやっていて、日本語も英語も達者な彼は、トルコでもかなりのエリートに違いありません。いろんな話ができて、日本とトルコとの関係がとても友好的であることもわかり、楽しい時間を過ごしました。
着陸態勢に入りかけた頃、彼が真剣な顔でそっと言うのです。「トルコリラは買っとくといいですよ。10年前に100円近かったのが今では35円ぐらいと、ピーク時の3分の1になりましたけど、ここが底です。これ以上は下がりません。必ず上がって、じきに倍の70円も望めます。金利も17%とむちゃくちゃ高いですし、絶対に買いです」
株と為替はやらないと決めている私ですが、この手の話をこれほどはっきりと勧められたのは初めてで、彼の人柄からも信用できたので、かなり心が動きました。しかし現実的に投資に回せるような資金の余裕もなかったのでそのままにしていたのです。でも彼の言葉はずっと忘れられず、手元に残ったトルコリラはそのまま持ち帰って、毎日の新聞で動向を見続けていたのでした。
そしたら、なんてこった。あれよあれよと下がり続け今月はついに16円を割りました。倍になるどころか半分以下になっちゃったのです。当時5,000円で交換した手元の130リラは9,000円に化けるはずの皮算用でしたがあっという間に2,000円にまで落っこちました。このお札を眺めていると、為替に手を出すことの怖さが実感できます。
いやぁ、話を信じて財産失わなくてよかったよ、と笑い話ですみましたが、それにしても思い出すのはK氏のナイスガイな笑顔です。もし彼があのままに自説を貫いていたなら今ごろ大損しているはず。彼は一体どこで何をしているのだろう。(弥)